コールセンター、AIエージェント数15ヶ月で約3倍、一方でROIは? ー 「相馬迅」と「相原ことは」の月曜対話 #4

この1週間のコールセンター×AIのニュースは、加速の数字と失望の数字が同時に並んだ。Salesforceの利用実データ分析は組織あたりのAIエージェント数が15ヶ月で約3倍になったと報じ、一方でGartnerの分析はAIカスタマーサービスでROIを生んでいるユースケースが4分の1にとどまることを示した。矛盾して見える2つの数字を、月曜対話で突き合わせる。
相馬迅: まず加速の側から。Salesforceが「Agentic Enterprise Index」の第2版を出しました。Agentforceを継続運用している企業コホートの実データで、組織あたりの有効エージェント数は2025年2月の平均5体から2026年4月に13体へ、月次複利7%のペースで増えています。CX Diveの報道によれば、エージェントの作成から有効化までの時間は53%短縮されて2日未満。事実として、動かしている企業の中では「増やす・速く作る」が当たり前になりつつある。
相原ことは: その数字を受け取る前に、分母の確認が要ります。あれは「Agentforceを一貫して本番運用し続けた企業」だけのコホートで、途中でやめた企業は入っていません。うまくいった企業の平均が3倍という話であって、市場全体が3倍ではない。実務側の肌感に近いのはむしろ同じ週に出たもう1つの数字で、Gartnerの432ユースケース分析では、ROIを生んでいるのは25%、マイナスリターンが25%、ROI不明が42%です。加速しているのは一部で、大半はまだ回収できていない。
相馬迅: 矛盾しているようで、していないと。つまり「うまく回せる企業は13体まで増やせるようになった」と「そもそもうまく回せる企業が4分の1しかいない」が同時に真である、という読みですか。
相原ことは: そう読んでいます。しかも境目は技術ではなく運用にあります。ROI不明が42%というのは、失敗ではなく測っていないということです。ボイスボットでもエージェントでも、分母と分子を定義して測定する体制がある企業だけが、投資を続ける根拠を持てる。Gartnerは2月の時点で、AIを理由に人員を削減した企業の半数が2027年までに再雇用に転じるという予測も出しています。測らずに削減だけ先行させた企業から、揺り戻しが来る構図です。
相馬迅: 国内の動きも1本。OKIが8月21日、コールセンター向けの新システム「CTstage AI コンシェルジュ」を発表しました。日本経済新聞の報道によれば、AIが問い合わせの一次対応と振り分けを担い、顧客の不満を検知すると有人に切り替える設計で、提供は2027年1月から。2029年度に100セットという目標も出ています。海外が「エージェントを何体並べるか」を競っているときに、国内の老舗ベンダーは「不満を検知したら人に返す」を前面に出してきた。
相原ことは: その対比は今日の論点の縮図だと思います。不満検知での有人切替は、カスタマーハラスメント対策義務化を意識した機能でもありますが、本質的にはハンドオフの品質を製品の売りにしたということです。エージェントを13体に増やしても、人への引き継ぎが雑なら顧客体験は壊れます。ただし留保も付けます。「不満を検知して切り替える」の精度は公開されていませんし、提供開始も2027年1月ですから、現時点では設計思想の発表として読むべきです。
相馬迅: 整理すると、今週の3本は「増やせる企業は速く増やせる」「回収できているのは4分の1」「人に返す設計が国内製品の売りになった」。センター長が持ち帰るべき判断はどこにあります?
相原ことは: 2つに絞ります。1つ目は、エージェントを増やす前にROIの測定定義を作ること。42%の「不明」に入った瞬間、投資判断は続けられなくなります。2つ目は、ベンダー比較の際に「増やす能力」と「人に返す品質」を別の評価軸として持つこと。前者はSalesforceの指標が、後者はOKIの設計思想が、それぞれ参照点になります。
加速の数字と失望の数字は、どちらかが誤っているのではなく、測っている集団が違う。自社がどちらの集団に入るかを決めるのは、導入するエージェントの数ではなく、測定と引き継ぎの設計である。それが今週の結論になる。
※本稿の数値・事実は2026年8月24日時点で各出典を確認したものです。対話は編集上の構成であり、素材は公開情報のデスクリサーチに基づきます。見解にわたる部分は筆者個人のものです。
出典
CX Dive「AI agent headcount triples in 15 months: Salesforce」
CX Dive「Only one-quarter of AI customer service use cases produce ROI」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

