コールセンターでAIが使われないときの改善手順 ー 利用ログとSV面談から立て直す

導入したAIアシスタントの利用率が上がらない、という相談は、たいてい「現場が抵抗している」という説明で片づけられる。だが、数字を見ると別の風景が出てくることが多い。SuccessKPIがCMSWireと実施した成熟度調査(世界のコンタクトセンター運営者400名・同社発表)は、7つの柱のうち最も成熟しているのが「戦略」で、それを実現する技術が揃っていない、または成果がまだ出ていない企業が大半だと報告している。戦略はある。ツールも入っている。それでも使われない。この状態を精神論で語らずに立て直すには、どこで止まっているかを分解する順番が要る。本稿はその手順を編集部の提案としてまとめる。
コールセンターのAI利用率は分母を決めないと測れない
最初にやるべきは、改善策の検討ではなく分母の定義だ。「利用率30%」という数字は、それだけでは何も意味しない。分母が全オペレーターなのか、そのAIが対象とする用件を扱うオペレーターだけなのか。分子が「一度でも開いた」なのか「回答に反映した」なのかで、同じ現場の数字が倍以上動く。
たとえば要約支援AIを入れたとして、対象は入電応対をするオペレーターだけなのに、分母にバックオフィス担当やエスカレーション専任者まで含めていれば、利用率は構造的に低く出る。逆に「ログイン率」を利用率と呼べば、実態より高く出る。これは体重計の目盛りを変えて痩せたと言うようなもので、どちらに転んでも改善の意思決定には使えない。
分母は3つの軸で切る。①対象者(そのAIを使う業務に就いているオペレーターは誰か)②対象用件(AIが答えられる想定の用件はどれか)③対象時間(研修期間・繁忙期は分けるか)。この3つを書き出してから、利用ログを取り直す。ここを飛ばして施策に入ると、あとで「そもそも対象外の人を数えていた」という結論に戻ってくる。
未利用・修正・離脱を分けて理由を見る

分母が決まったら、次は「使われていない」の中身を3つに割る。
未利用は、AIの画面を開いていない状態。導線の問題(呼び出しに手数がかかる、別ウィンドウで切り替えが面倒)か、そもそも存在を知らないかのどちらかであることが多い。
修正は、AIの出力を使ったが、大きく直している状態。これは利用率としてはカウントされるので、放置すると「使われているのに楽になっていない」という状態が数字の裏に隠れる。Typewiseが米英独のカスタマーサービス担当207名に実施した調査(2026年3月公表・同社発表)では、72%が効率は上がったと答えた一方、業務の時間と手間が実際に減ったと答えたのは42%にとどまっている。AIが仕事を消すのではなく移動させている、という現場実感がこの30ポイントの差に表れている。
離脱は、一度使ったが途中でやめた状態。誤った出力に当たった、応対の速度に間に合わなかった、といった具体的な失敗体験が背後にある。離脱だけは、ログよりも聞き取りでしか原因が取れないことが多い。
この3分割が重要なのは、打ち手がまったく違うからだ。未利用は導線と告知、修正はナレッジと指示文、離脱は品質と応答速度。「利用率を上げよう」という掛け声はこの3つを混ぜてしまうので、どれにも効かない。
SVと一業務だけ選んで改善する
原因の切り分けができたら、全体展開はいったん止めて、SV(スーパーバイザー)1名と用件1つに絞って改善する。理由は2つある。
第一に、AIの出力品質はナレッジの質に強く依存し、ナレッジの質は用件ごとに大きくばらつくからだ。ナレッジ運用の方法論であるKCS v6 Practices Guide(Consortium for Service Innovation・非営利団体が策定・維持)は、知識を使う人が使う瞬間に作り直していく運用を原則に置いている。この考え方をAI時代に置き直すと、「AIが答えられない用件を見つけたSVが、その場でナレッジを直す」ループが回るかどうかが分岐点になる。全用件を同時に直そうとすると、このループはまず回らない。
第二に、改善の効果を測れる粒度が要るからだ。用件を1つに絞れば、その用件の利用率・修正率・処理時間を前後で比較できる。10用件を同時にいじると、何が効いたのかが特定できないまま次の施策に進むことになる。
SVの役割は、AIの使い方を教えることではなく、AIが間違えた事例を集めて原因を1つずつ潰すことに置く。オペレーターさんに「使ってください」と言うのではなく、「うまくいかなかったケースを教えてください」と言う。集まる情報がまったく変わる。
ここで注意したいのは、利用を評価制度に紐づける誘惑だ。利用率をKPIに置けば数字は上がる。ただし上がるのは「開いた回数」であって、応対品質ではない。強制的な利用と、便益による利用は分けて設計する必要がある。前者は数字を作り、後者だけが業務を変える。
4週間で利用と品質を一緒に振り返る

改善の振り返りは、編集部の運用例として4週間を1サイクルに置くことを提案したい。1週間では修正の効果が出る前に評価してしまい、3ヶ月では原因が混ざりすぎる。
振り返りで並べる数字は4つ。①対象用件の利用率(分母を定義したもの)②修正率(AI出力を大きく直した割合)③その用件の平均処理時間 ④その用件の品質評価スコア。①だけを見て改善したと判断しないことが肝心で、利用率が上がって品質が落ちていれば、それは改悪だ。
この「測って、直して、また測る」を仕組みとして持つ発想は、AIのリスク管理でも同じ構造で語られている。NISTのAI Risk Management Frameworkは、コア機能をGOVERN(統治)・MAP(把握)・MEASURE(測定)・MANAGE(対応)の4つに分け、GOVERNを他の3つに横断的に浸透させる機能として位置づけている。コンタクトセンターの定着施策に引き写せば、誰が変更を承認するか(GOVERN)を決めないまま、測定と対応だけを現場に任せると、改善が属人化して止まる。4週間の振り返りには、SVだけでなく変更を承認する立場の人が同席する設計にしておきたい。
なお、この4週間・4指標は編集部の運用例であり、特定の調査や標準に基づく推奨値ではない。自社の呼量規模と評価サイクルに合わせて調整する前提で読んでほしい。
ここからは私の見立てとして
ここからは私の見立てとして書く。AIが使われない問題の多くは、現場の抵抗ではなく、導入側が「使われている状態」を定義しないまま配ったことに起因していると思う。分母も、修正の扱いも、成功の基準も決めずにログだけ眺めれば、そこに映るのは現場の姿ではなく、測り方の粗さだ。
自己反証をひとつ置く。この見方は「設計さえ正しければ使われる」と言い過ぎている可能性がある。現実には、応対中の数秒を奪うツールは、どれだけ設計が良くても現場が捨てる。速度が閾値を割っていれば、分母の議論より前に、まず遅延を削るしかない。その意味で本稿の手順は、応答速度が実用圏に入っていることを前提にした手順である。
その条件のもとであれば、立て直しは次の順で効く。第一に、分母と成功基準を先に文書化すること。第二に、未利用・修正・離脱を分けて、打ち手を混ぜないこと。第三に、SV1名・用件1つに絞り、4週間で利用と品質を一緒に見ること。
では、あなたのセンターで「AIが使われている」とは、具体的に何が起きている状態を指すのか。その一文を今書けるかどうかが、たぶん最初の分かれ目になる。
よくある質問
Q1. 利用率は何%あれば成功と言えますか? A. 汎用的な目標値はありません。分母の定義(対象者・対象用件・対象時間)によって同じ現場でも数字が大きく変わるため、他社比較ではなく自社の前月比で見るべきです。
Q2. 利用率をオペレーターの評価に入れてもよいですか? A. 数字は上がりますが、上がるのは開いた回数であって応対品質ではありません。強制的な利用と便益による利用は分けて設計し、評価に入れる場合も品質指標と必ず対で見ることを勧めます。
Q3. 改善はどの単位で始めるべきですか? A. SV1名・用件1つが目安です。複数用件を同時にいじると、効果の帰属が特定できず、次の判断に使えるデータが残りません。
現場の定着事例をもっと見るなら
現場での定着をどう設計したかは、実際にセンターを運営している方の話を聞くのが早い。CC AI BENCHMARK 2026のセッション動画を会員向けに公開しています。
CC AI BENCHMARK 2026 セッション動画(会員限定)
注記
本稿は2026年9月11日時点の公開情報に基づくデスクリサーチであり、見解は筆者個人のものである。本文中の4週間サイクル・4指標・3分割の手順は編集部の提案であり、特定の調査や標準に基づく推奨値ではない。SuccessKPIおよびTypewiseの数値はいずれも各社発表であり、第三者による検証は行われていない。Typewiseの調査は2026年3月公表のため、公表から半年が経過している点に留保が要る。本稿はAIによるデスクリサーチに基づいて執筆している。
出典
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



