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AHTを1分縮めると席が4つ減る。コールセンターの「アーラン式」は何を計算しているのか ー 「1人あたり◯分」の稟議が小さく見える本当の理由

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AI導入の稟議書で最もよく見る式は、「担当者1人あたり1件◯分の削減、それが◯人分、時給に換算して年間◯円」です。分かりやすく、決裁者にも説明しやすい。ただ、この式で出る金額はシステム利用料と並べると小さく見え、「それだけ?」で稟議が止まる。カラクリ株式会社でVP of Productを務める川端大貴氏は、2026年9月7日に公開した「ROIは『1人』ではなく『1席』で数えろ」で、この停滞の原因を「数え方」に求めました。コンタクトセンターの費用は人ではなく席に紐づいており、席で数え直すと同じ効果が大きく見える、という論旨です。川端氏はAIベンダーの当事者であり、この枠組みには自社の製品を売る立場が伴います。本記事はその枠組みを紹介する記事ではなく、根拠にある式を当ラボで独立に計算し直し、どこまで成り立つかを確かめる記事です。

氏が根拠の一つに挙げたのが「アーラン式」です。待ち時間は席の稼働率(席が埋まっている時間の割合)に対して直線では動かず、負荷が限界に近いほど急激に悪化する。だから繁忙時の1件1分は、席数と待ち時間に想像以上に効く。氏は「細かい式は省きますが」と書いていますが、この式が何を計算しているかを知らないと、「1件1分が席数16%減、待ち時間約90%減」という数字がなぜ出るのかが腑に落ちません。

この記事では、アーラン式そのものを数式を使わずに確かめます。誰が何のために作った式で、何を入力すると何が出て、なぜ待ち時間が崖のように立ち上がるのか。川端氏の思考実験を当ラボで計算し直し、席数と待ち時間の数字がどう出るかを表で示します。そのうえで、この式が前提にしている条件と、AIが一次対応を担うようになったときにその前提がどう崩れるかまでを扱います。立場を先に書くと、川端氏の「席で数えろ」は稟議書の書き方の話に見えて、実際にはセンターの需要曲線をどこで測っているかの話です。

この記事の要点

  • ①アーランC式は「電話が鳴った瞬間に空き席がゼロである確率」を計算する式。入力は入電数・処理時間・席数・目標応答秒数の4つで、出力は待ち確率・平均応答速度・サービスレベル

  • ②席数は呼量(入電数×処理時間)にほぼ比例して決まるが、待ち時間は席の稼働率が80%を超えたあたりから崖のように伸びる。当ラボの計算では、25席のセンターで入電が1時間200件から240件に増えると待ち時間は15秒から280秒になる。1件1分の短縮が「人で数えると小さく見える」のは率の差ではなく、掛ける単価と、測る場所が平均か山かの差

  • ③川端氏の思考実験を再計算すると、1件6分を5分に縮めれば必要席数は25席から21席、席を減らさなければ待ち時間は約9割減。ただし式は放棄呼・スキル別・チャットの同時対応を扱えず、AIが山だけを吸収する構成になると「席」の前提そのものが動く

1. アーラン式は電話交換機の回線数を決めるために生まれた

1. アーラン式は電話交換機の回線数を決めるために生まれた

アーラン式の名前は、デンマークの数学者アグナー・クラルプ・アーラン(Agner Krarup Erlang)に由来します。英語版Wikipediaの記述によれば、氏は1878年に生まれ、1908年からコペンハーゲン電話会社に勤め、1929年に亡くなるまで在籍しました。1909年の論文でランダムな電話の到着にポアソン分布が当てはまることを示し、1917年の論文で「呼損」と「待ち時間」の古典的な公式を導いています。当時の問題は、ある町の加入者が同時に電話をかけたとき、交換機の回線を何本用意すれば話中にならないか、でした。回線を人に、話中を待ち時間に置き換えれば、そのままコンタクトセンターの席数の問題になります。

電話トラフィックの国際単位が「アーラン」と名付けられたのは、Wikipediaの「Erlang (unit)」の項によると1946年です。1本の回線が1時間ずっと使われている状態が1アーラン。25席のセンターに平均20本の通話が走っていれば、呼量は20アーランです。

式には主に2種類あります。アーランB式は待ち行列を持たない式で、全回線が塞がっていれば新しい呼は話中で失われるという前提です。回線数の設計に使われます。アーランC式(Erlang C)は、全席が塞がっていれば呼は待ち行列に入り、待ち行列の長さに上限がないという前提です。コンタクトセンターで席数を決めるときに使われるのはこちらで、川端氏が「アーラン式」と呼んでいるのもこのC式です。Call Centre Helperの解説は、アーランC式を「入電数とサービスレベルの目標から、必要なオペレーター数を計算する数式」と定義し、入力として入電数、集計期間、平均処理時間、目標サービスレベル、目標応答秒数の5項目を挙げています。集計期間と入電数を「一定時間あたりの件数」にまとめれば、実質の入力は4つです。なお式は両方向に使えます。目標サービスレベルを入れて必要な席数を出すこともできれば、席数を入れて達成できるサービスレベルを出すこともできます。次章の表は後者の向きで、席数を入力に置いています。

ここで一つ、業界の慣行についても触れておきます。川端氏の例にある「80%の呼を20秒以内に応答する」は、多くのセンターが目標にしている値です。ただしこの80/20に理論的な根拠はありません。WFMベンダーのVerintが公開している解説は、「80/20のルールや原理というものは存在せず、コールセンター技術の初期に恣意的に選ばれた」「最も一般的なサービスレベルは80/20だが、この基準がどこから来たのかは誰も知らない」と書いています。1970年代にRockwell社が作ったコールセンター基盤に組み込まれていたという説や、AT&Tの調査で発信者が20秒で切る傾向が分かったからという説が紹介されていますが、同記事はどちらも伝聞として扱っています。80/20は目標であって法則ではない、という点は、後でAIの席を考えるときに効いてきます。

会員先行公開中(9月17日に一般公開

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この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

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