50万人全員を「AI装備」へ、それでも売上成長は0〜2% ー 世界最大手BPOの賭けは「企業はもうケアしていない」という不信への答えになるか

2026年7月19日(現地時間)、コンタクトセンター業界にとって対照的な2本の記事が同じ日に出た。1本はBloombergの報道。BPO世界最大手のTeleperformanceが、約50万人の全従業員を2026年末から2027年初頭までにAIツールを使いこなす状態にすると明らかにした。もう1本はForbesに載った論考で、タイトルは「なぜ企業は以前ほどケアしなくなったと感じるのか」。効率化と自動化を追った企業から、顧客が「大切にされていない」と感じ始めているという内容だ。片方は供給側の最大手が打った人材戦略、片方は需要側に積もる不信。先に立場を書いておくと、筆者はこの2本を別々の話ではなく、同じ問いの表裏だと読んでいる。そしてTeleperformanceの宣言は、本誌が7月5日の記事「1兆円のBPO市場、なぜ大手は『人を売る会社』をやめ始めたのか」で国内BPO大手に置いた判定条件への、海外からの最初の答案でもある。
1. 何が起きたか ー 「人を減らす」ではなく「人を作り替える」
Bloombergのインタビューに答えたのは、CEOのJorge Amar氏。同氏は2026年2月、McKinseyのAIコンサルタント出身として経営刷新の中でCEOに就いた人物で、就任から半年での宣言になる。計画の骨子は、採用から中核のカスタマーサービス業務までAIツールを組み込み、全従業員が日常業務でAIを使う状態を2027年初頭までに作ること。管理職の事務作業の自動化や、営業担当への交渉支援など一部領域では導入が始まっており、GoogleやBCGからAI人材を採用している。Amar氏はこれを人員削減の計画ではなく「人間とAIエージェントの両方から成るハイブリッドワークフォース」の土台と位置づけ、5年以内にコンタクトセンター業界の標準になると見る。
数字も添えておく。2025年通期の決算説明で同社が示した2026年ガイダンスは、売上成長0〜2%。社内AI活用による年間1億ユーロ超のコスト削減目標と、7,000万〜9,000万ユーロのリストラ・人員適応費用が並ぶ。つまり、少なくとも短期の成長は犠牲にして人と仕組みの作り替えに投資する、という数字の構えだ。
一方のForbesの論考は、Natalie Beckerman氏の著書『When Did You Stop Caring?』を軸に、効率化・自動化・コスト削減が手段から目的に変わったとき、顧客体験は「処理」になり、顧客はケアされていないと感じると論じる。ただし反AIの主張ではない。同論考が引く調査では、顧客の58%は「AIは体験を改善しうる」と考え、54%は「AIとチャットボットで速度と効率は大幅に改善した」と答えている。問題はAIの存在ではなく、AIを「顧客を避ける道具」に使うか「顧客に仕えるための道具」に使うか、という使い方の側にある。
2. なぜ重要か ー 「ケアの低下」は感情論ではなく計測の穴
「企業はケアしなくなった」という感覚には、実は定量の裏づけがある。2026年の消費者調査では、問い合わせがAI関与で「解決した」と答えた人が88%いたのに対し、その体験で企業を「より好きになった」人は22%しかいなかった。別のグローバル調査では、チャネルや担当者が切り替わるたびに同じ情報を繰り返させられていると答えた消費者が48%にのぼり、86%はシームレスな引き継ぎを重要だと答えている。AHT・自動化率・削減率という効率の計器はどのセンターのダッシュボードにも載っているが、顧客が払わされる「言い直し」「たらい回し」という労力を測る計器は、ほとんどの現場に無い。ケアが減ったというより、ケアを測る計器が最初から付いていない。ここが正確な診断だと筆者は考えている。
この環境でTeleperformanceが選んだのが、人の置き換えではなく人の増強だった点は示唆的だ。CMSWireがまとめた統計では、AI支援は処理時間を9%短縮し、時間あたりの問題解決件数を14%増やすとされ、コンタクトセンターリーダーの76%は「AIが振り分け、複雑な対応は人が受ける」というhuman-in-the-loop型の分担を正式に採用している。当て馬として全面代替の側を置くと輪郭が出る。Klarnaは700人分の業務に相当する問い合わせをAIアシスタントに担わせた後、品質低下を認めて2025年に人を採り直した。最も遠くまで代替を進めた企業の揺り戻しを見たうえで、最大手は「全員を武装させる」側に賭けた、という時系列になる。
もう一つ、語彙の変化にも注目したい。6月上旬、NiCEは20年来の業界カテゴリだったWEM(Workforce Engagement Management)をWorkforce Empowermentへ再定義し、「人とAIのハイブリッド労働力のオーケストレーション」を掲げた。その約1カ月半後、同じ「ハイブリッドワークフォース」という言葉が、今度は製品カテゴリではなく50万人の雇用・研修・評価の話として現れた。ツールの仕様書にあった言葉が、職務記述書の話に降りてきた。この降り方の速さが、2026年下半期の業界の速度だと思う。
3. 国内への示唆 ー 7月5日の「3条件」の答え合わせ
本誌は7月5日の記事で、AI化を進める国内BPO大手(トランスコスモス・TMJ・NTTマーケティングアクトProCX)に対して「進化か溶解か」を分ける3つの判定条件を置いた。①AI外販の売上が受電席数の減少を上回るか、②削減率ではなく解決率・再問い合わせ率で語れるか、③AI化率・人員計画という都合の悪い数字も開示できるか。Teleperformanceの宣言をこの3条件に当てると、採点表が半分だけ埋まる。
条件③は、部分的に「開示した」と言える。全従業員という範囲と2027年初頭という期限を先に公表した大手は、筆者の知る限りこれが最初だ。国内大手の発表は応対履歴の入力時間80%削減のようなツール導入と削減効果が中心で、全従業員のAI習熟を期限付きで宣言した例は確認できていない。条件①は、売上成長0〜2%という数字が「移行期のコストを引き受けている」ことを自ら認めた形になる。そして条件②、解決品質の指標は未開示のままだ。ここが次の観測ポイントになる。
留保も付けておく。ここまでの読みは好意的すぎるかもしれない。「AI-enabled」の定義は開示されておらず、ツールを配ることと戦力化することは別物だ。CX Todayの調査では、リーダーの59%が「AIを組み込んだ業務への継続的なコーチングを提供できていない」と認めており、配布で終わる「武装」は珍しくない。売上成長0〜2%も、リスキリングの先行投資ではなく、主力の人月ビジネスの縮小の言い換えにすぎない可能性が同じ確度で成立する。Forresterが予測する2030年までのCS職49%減という潮流の中で、「減らす」と言わずに「作り替える」と言うことは、採用市場と投資家への言葉の選び方でもある。どちらの読みが正しいかは、条件②の数字、つまり解決率・再問い合わせ率が出てくるかどうかで判定できる。
発注側の実務に落とすなら、委託先のBPOに聞くべき質問が変わる。「AIツールはありますか」ではもう差がつかない。「オペレーター全員がAIを使いこなす計画と期限はあるか」「習熟をどう測っているか」「削減率ではなく解決率・再問い合わせ率で報告できるか」。世界最大手が期限を切った以上、この質問への答えの有無が、2027年の委託先選定の分かれ目になっていく。
まとめ
第一に、世界最大手BPOのTeleperformanceが、約50万人の全従業員を2027年初頭までにAI活用状態にすると期限付きで宣言し、ツール導入の話だった「ハイブリッドワークフォース」を雇用・研修の話へ引き下ろした。第二に、同じ日に出た「企業はケアしなくなった」という論考は感情論ではなく、解決率88%に対し好意22%という計測の穴として定量的に説明できる。第三に、この賭けが防衛的な縮小の言い換えで終わるか、人の増強による品質の反転になるかは、解決品質の指標が開示されるかで判定できる。
問いはこうだ。あなたのセンター、あるいは委託先のダッシュボードには、効率の計器のほかに「顧客がケアされたと感じたか」を測る計器が付いているだろうか。
※本記事は2026年7月27日時点で確認できた公開情報に基づいています。Teleperformanceの計画・数値は同社発表および報道ベースであり、AI活用の定義や進捗の第三者検証は確認できていません。見立てに関する記述は筆者個人の見解です。
出典
- Bloomberg「Teleperformance Wants Entire BPO Staff to Be AI-Enabled by 2027」
- Forbes(Shep Hyken)「Why Does It Feel Like Companies Care Less Than They Used To?」
- BusinessMirror「Teleperformance wants all BPO staff to be AI-enabled」
- Bloomberg Law「Teleperformance Replaces CEOs With McKinsey AI Consultant」
- Investing.com「Earnings call transcript: Teleperformance Q4 2025」
- PR Newswire「New Study Finds AI Resolves Issues But Quietly Breaks Loyalty」
- GlobeNewswire「New Global Research Reveals Customer Communications Failures Are Driving Loyalty Loss」
- CMSWire「16 Important Call Center Statistics to Know About」
- Forbes「Klarna Reverses On AI, Says Customers Like Talking To People」
- No Jitter「How WEM Is Becoming Workforce Empowerment in the AI Era」
- トランスコスモス「コンタクトセンターの生成AI活用で応対履歴の入力時間を80%削減」
- CX Today「How to Prepare Your Contact Center Workforce for AI」
- Forrester「AI Will Reshape Customer Service Jobs In Dramatic Ways」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



