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ROIが出るのは4件に1件、なぜコールセンターAIの試算は信用されないのか ー「削減額に載せてよい費目」が結果を分ける

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AIカスタマーサービスの投資でROI(投資対効果)を生んでいるのは4件に1件。Gartnerが432のユースケースを分析した結果は、ROIを出せたのが25%、逆にマイナスのリターンが25%、ROIが不明確なものが42%、損益分岐が11%という内訳だった。それでも4分の3以上のリーダーが2026年もAI投資を増やす計画だという。なぜ効果が見えないまま投資が続くのか。答えの一つは、そもそも「何を削減額に数えてよいか」の共通ルールがなく、試算が会社ごと・担当者ごとにばらついているからではないか。先に立場を言えば、コールセンターAIのROIは「効果が出ないから通らない」より「計算の作法が揃っていないから信用されない」ケースがかなりの割合を占めると見ている。

ROIの成否は「25%」、期待とのギャップは投資家調査に出ている

まず規模感である。Gartnerの分析では、AIカスタマーサービスのユースケースのうちROIを生んだのは25%に過ぎない一方、興味深いことに、AI導入後に人員を約25%増やした企業と約25%減らした企業がほぼ同数存在し、「AI=単純な人件費オフセット」という前提自体が成立していない。

当て馬として、より広い企業AI全体の数字を置くと、MITのNANDAイニシアチブの報告では、300〜400億ドルの企業投資に対し、生成AIパイロットの95%が測定可能なリターンを出せていないとされる。カスタマーサービスの「25%がROIを生む」は、これと比べればむしろ健闘している数字である。もっとも、Gartnerの分析対象はユースケース単位、MITはパイロット単位と分母の性質が違うため、単純比較はできない。

期待側の数字も見ておく。CIOの記事が紹介するTeneoの調査では、投資家の53%が6ヶ月以内のプラスROIを期待する一方、CEOの84%は「6ヶ月より長くかかる」と答え、IDCの調査ではAI投資の回収期間の中央値は14ヶ月とされる。つまり、期待(6ヶ月)と実態(14ヶ月)の間に2倍以上の開きがあり、この谷間で「ROI試算の信頼性」が毎回問われることになる。

なぜ試算がばらつくのか ー 分子に入れる費目が会社ごとに違う

なぜ試算がばらつくのか ー 分子に入れる費目が会社ごとに違う

ROIの計算式そのものは単純で、削減額と増収額の合計を投資額で割るだけである。ばらつきの正体は、分子の「削減額」に何を入れるかにある。

一番狭い計算は、削減した応対の直接人件費だけを数える方法だ。米国ではCapacityのリリースが、有人の電話応対1件あたり7〜13ドルに対しAI応対は0.5〜2ドルというコスト比較を示している(ベンダー発表の概算であり、前提条件は開示されていない点に留保が要る)。この「1件あたり単価×自動化件数」が最も硬い計算だが、これだけだと投資額に届かないことが多い。

一方で、現実のセンターのコストは応対人件費だけではない。SQM Groupの解説によると、平均的なオペレーター1人を採用・研修して戦力化するコストは新人の年収の30〜50%に相当し、同社が25年以上ベンチマークしてきた中で2022年の離職率35%は過去最高水準だったという。Intradiemの解説は、Frost & Sullivanのデータとして1人の補充に最大3.5万ドルかかり、1,000席のセンターが年40%の離職なら補充費だけで年間最大1,400万ドルに達すると紹介している。採用費・研修費・立ち上がり期間の生産性損失は、日本のセンターでも実在するコストだが、AIのROI試算に入れる会社と入れない会社が分かれる。

実際、AIは既にこの領域に効き始めている。Metrigyの697社調査では、AI導入を理由に新規採用を絞った企業が55.7%にのぼり、36.8%は平均24.1%の人員削減を実施、エージェントアシスト導入企業では平均処理時間が29.5%短縮したとされる。「解雇」ではなく「採用を止める」形で効果が出るなら、削減額は給与台帳ではなく採用計画の差分に現れる。ここを数えない試算は、効果を過小評価していることになる。

社内で通る試算の型 ー 費目を4層に分け、確度のラベルを付ける

社内で通る試算の型 ー 費目を4層に分け、確度のラベルを付ける

ばらつきを防ぐ実務の型として、削減費目を確度の高い順に4層に分けることを提案したい。

第一層は「直接応対コスト」。自動化された件数×1件あたり有人単価。自社の実測単価を使い、AI導入後も残る監視・例外対応の工数を差し引く。ここは実測できるので、試算の土台に置く。

第二層は「後処理・周辺業務コスト」。要約・記録・振り分けなど、応対後の事務作業の短縮分。Metrigyの平均処理時間29.5%短縮のような外部ベンチマークを参考にしつつ、自社のACW(後処理時間)実測で置き換える。

第三層は「採用・定着コスト」。採用抑制できた人数×1人あたり採用・研修コスト、および離職率低下による補充費の減少。効果は実在するが、AI以外の要因(待遇改善・市況)も混ざるため、「AI寄与分」を全額計上すると疑われる。半額計上など保守的な係数を宣言して載せるのが通る書き方である。

第四層は「機会損失・リスク回避」。あふれ呼による売上機会の損失、24時間対応による受付増、カスハラ・コンプライアンス対応の訴訟リスクなど。ここは金額の根拠が最も弱く、主計算に入れると試算全体の信頼を毀損する。参考値として別枠に置くのが作法だと考える。

例えるなら、ROI試算は決算書と同じで、どの費目をどの基準で計上したかの「注記」があって初めて監査に耐える。第一層だけの保守的な数字と、第四層まで含めた最大の数字を両方見せ、どの層から先を意思決定に使うかを経営側に選ばせる構造にすると、「盛った試算」という不信を避けられる。

ここからは私の見立て

ここからは私の見立てとして書く。ROIが出ない75%の中には、効果が本当に出ていないケースと、効果は出ているのに計測設計がなく証明できないケースが混在しており、後者が相当な割合を占めるのではないか。Gartnerの内訳で最大区分が「不明確42%」であることが、その傍証である。導入前に基準値(自動化前の1件あたり単価・ACW・離職率)を測っていなければ、導入後にどれだけ効果が出ても差分は計算できない。

自己反証もしておく。「費目を広げれば通る」という方向には危うさもある。採用抑制や離職率まで計上した立派な試算がひとたび未達になると、次の投資稟議は通らなくなり、組織のAIへの信頼そのものが毀損される。だからこそ、広い費目は保守的係数と別枠表示で扱うべきで、「大きく見せる技術」ではなく「検証できる形に揃える技術」として使う必要がある。

この型が機能する条件は3つある。導入前に基準値を実測していること、AI以外の要因の寄与を認めて係数で割り引くこと、そして試算と同じ費目構成で導入後も四半期ごとに実測を続けることである。

まとめ

第一に、AIカスタマーサービスでROIを生むのは4件に1件で、最大区分は「不明確」の42%である。効果の不在だけでなく、計測の不在が数字を悪くしている。第二に、試算のばらつきは削減費目の取り方に起因し、直接応対・後処理・採用定着・機会損失の4層に分けて確度ラベルを付ければ、社内の共通言語になる。第三に、期待6ヶ月と実態14ヶ月のギャップを埋めるのは、大きな数字ではなく検証可能な数字である。あなたのセンターのROI試算は、どの層まで数えていて、その根拠を注記できる状態にあるだろうか。

注記

本記事は2026年8月28日時点の公開情報に基づくデスクリサーチであり、筆者個人の見解を含む。引用数値はGartner・MIT NANDA・Metrigy等の調査機関発表とベンダー発表(Capacity・Frost & Sullivan引用値)が混在しており、本文中で発表主体を明示した。各社の調査は対象・分母が異なるため、数値の単純比較はできない。


出典

この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

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この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

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