世界最大のコールセンター企業がAIで削るのは現場ではない ー テレパフォーマンスが名指しした間接部門

2024年2月、Klarnaが「AIチャットボットが客対応の3分の2をこなし、700人分の仕事に相当する」と発表した数日後、世界最大のコンタクトセンター(コールセンター)企業テレパフォーマンス(TP)の株価は一時30%近く急落し、7年ぶりの安値をつけた。Bloombergの報道によれば、この「Klarnaショック」は業界全体に波及し、米上場の同業Concentrixの株価も下落した。あれから約2年、TPは2025年に500件を超えるAIプロジェクトを展開し、AIパートナーシップに最大1億ユーロを投資する計画を掲げた。だが2025年通期決算を読むと、削減対象として名指しされているのは、現場のオペレーターではない。
1. 「AIで人が減る」を裏付けない決算の数字

まず規模から確認する。TPの2025年版URD(Universal Registration Document)は、2025年末時点で従業員数が世界約100カ国でほぼ49万人になったと発表している(同社発表)。TPは2023年の大型統合時にも従業員規模を「ほぼ50万人」としており(同社発表)、500件超のAIプロジェクトを走らせた1年を経ても、全社の人員規模は大きく変わっていない。
ネット上には、第三者データベースが推計した「2025年末に約45万人へ減少した」とする数字も出回っているが、これはTP自身が開示する決算数値と整合しない外部推計であり、本稿では採用しない。人数の増減を語るときにどちらの数字を根拠にするかで、結論はまったく違って見える。「同社発表」か「第三者推計」かを区別せずに語る記事が、この会社については特に多い。
もっとも、人数の横ばいは楽観材料そのものではない。同決算資料は、AI関連のITコストが2025年のEBITAマージンを15ベーシスポイント押し下げたことも開示している(同社発表・2025年12月期)。AIはまだ、利益を押し上げる要因ではなく、コストとして計上される段階にある。
2. TPが名指しした「間接部門」の中身
では、TPは何を減らそうとしているのか。同決算資料によれば、TPは2026年に7,000万〜9,000万ユーロの「workforce adaptation(人員体制の適応)」および再編費用を計上する見込みで、その対象を採用・研修・ワークフォースマネジメント(WFM)・スーパーバイザー(SV)・品質管理と明記している。想定される年間の削減効果は1億ユーロ超で、2026年はその約半分を計上する見通しだとしている(いずれも同社発表・2026年2月開示)。
つまりAIが代替しているのは、電話を受けるオペレーターではなく、オペレーターを採用し、育成し、シフトを組み、評価する側の階層だ。オペレーター本人の応対をAIエージェントが録音から自動採点すれば品質管理の工数は減り、AIが需要予測を出せばWFM担当者の調整作業は減る。TPが持つTP.ai FABという統合AIプラットフォームは、こうした管理業務の自動化を横断的に行うための基盤として位置づけられている(同社発表)。
病院にたとえると、AIが代替しているのは「診察する医師」ではなく「シフト表を作る事務局」や「カルテを二重チェックする監査担当」に近い。現場の診察行為そのものより、現場を管理・調整する後方の階層の方が定型化された判断が多く、AIに渡しやすいということだ。
3. 「Klarnaショック」自体がすでに一度、揺り戻している

ここで見落とせない動きがある。2024年にTPの株価を急落させた震源地であるKlarna自身が、その後この路線を修正している。Forbesの報道によれば、KlarnaのシエミアトコフスキーCEOは2025年、AI一辺倒の対応を見直し人手を再び増やす方針へ転換したと述べ、「コストにこだわりすぎて、品質が落ちた」と説明した(同氏発言・報道ベース)。AIが人員を丸ごと代替できるという2024年当時の期待は、震源地自身によって1年余りで修正されたことになる。
日本では「AIでオペレーターが減る」という論点で語られがちだが、TPの決算が示す実態は、現場ではなく管理階層から先に削られるという順序だ。Klarnaの揺り戻しも踏まえると、「現場を機械に置き換える」より「管理業務を機械に渡し、現場の人員はそのまま維持しながら生産性を上げる」方が、今のところ実際に企業が選んでいる型に近い。
4. 先に見るべきは中間管理機能
日本のコールセンターでAI導入の議論をするとき、真っ先に検討対象になるのは「オペレーターの人数を何人減らせるか」だ。だがTPの決算が示す通り、世界最大手が実際に予算を割いているのは、採用・研修・WFM・SV・品質管理という、現場を支える中間管理機能である。国内の議論も、まず自社のSV・研修担当・WFM担当の工数がどこにどれだけかかっているかを洗い出すところから始めた方が、TPの動き方には近い。
自己反証もしておく。TPは売上約102億ユーロ規模のグローバルBPOであり、案件の多様性・言語数・拠点数が日本の多くのセンターとは桁違いに大きい。中間管理階層が肥大化しやすい組織構造だからこそ、そこにAIの効きしろがあるという見方もでき、現場オペレーターの比率がもともと高い小規模センターでは同じ順序が成立しない可能性がある。
条件を付けるなら、中間管理機能が複数拠点・複数言語にまたがって重複している組織ほど、TPと同じ「間接部門から」の順序が当てはまりやすい。単一拠点・単一言語のセンターでは、削減余地よりも先に、SVや研修担当がそもそも足りているかを確認すべきだろう。
まとめ
第一に、TPは2025年末時点でほぼ49万人の従業員数を維持しており(同社発表)、AIプロジェクトの拡大が人員の大幅減少に直結してはいない。第二に、TPが2026年に計上する人員体制の適応費用は、採用・研修・WFM・SV・品質管理という間接部門に向けられており、現場のオペレーターではない。第三に、TPの株価急落の震源地であるKlarna自身が、AI一辺倒からの揺り戻しをすでに経験している。
あなたのセンターで、AIに任せるべきかを最初に検討すべきなのは、現場の応対業務だろうか、それとも現場を管理する側の業務だろうか。
よくある質問
Q1. テレパフォーマンスはAIでオペレーターを削減していないのですか? A. 2025年末時点の従業員数は世界約100カ国でほぼ49万人と、大型統合直後の水準からほぼ横ばいです(同社発表)。2026年に計上する人員体制の適応・再編費用は、採用・研修・WFM・SV・品質管理という間接部門を対象にしており、現場のオペレーター削減が明記されているわけではありません。
Q2. 「従業員数が45万人に減った」という情報を見ましたが本当ですか? A. その数字は第三者データベースによる推計であり、TP自身が決算で開示する数値(ほぼ49万人)とは整合しません。本稿では企業自身の開示を優先し、この第三者推計は採用していません。
Q3. Klarnaショックの震源地であるKlarnaは今もAI一辺倒なのですか? A. 2025年にCEOが「コストにこだわりすぎて品質が落ちた」と述べ、人手を再び増やす方針へ転換したと報じられています。2024年時点の「AIが人員を丸ごと代替できる」という期待は、震源地自身によって修正されました。
注記
本稿は2026年2月26日発表のTP 2025年通期決算プレスリリースおよび2025年通期URD(Universal Registration Document)を一次情報として、2026年9月10日時点の公開情報に基づき作成したデスクリサーチであり、見解は筆者個人のものである。ネット上に見られる「2025年末の従業員数を約45万人」とする推計は、TP自身の開示数値(約49万人)と整合しないため本稿では採用していない。
出典
Bloomberg「Call-Center Firm Sinks on Klarna Claims AI Is Doing Its Job」
Forbes「Klarna Reverses AI Push, Says Customers Prefer Human Support」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



