コールセンターはAIでなくなるのか ー 「なくなる仕事」論と現場で起きていることの距離

「コールセンター AI なくなる」。この検索をする人は2種類いる。自分の仕事が消えるのかを知りたい働く側と、要員計画をどこまでAI前提で組んでよいかを決めたい採用側だ。Forresterの予測は、2030年までに現在の顧客サービス職の49%がAIによって消えるとする。半分がなくなるという数字だけを見れば、答えは出ているように見える。ただし、実際に人員を減らした組織を数えた調査は、まったく別の景色を示している。本稿の立場を先に言えば、「なくなる」か「なくならない」かの二択で考えること自体が、判断を誤らせる。消えるのは「コールセンター」ではなく特定の業務であり、その入れ替わりの速度は予測より遅く、方向は予測より複雑だ。
1. コールセンターの仕事は「半分消える」のか ー 予測と実測の距離

まず予測側の数字から確認する。Forresterのアナリストが2026年5月に公表した分析は、2030年までに顧客サービス職の49%が消え、特に定型的な問い合わせを大量にさばくB2Cセンターの若手・中堅層が最も影響を受けるとした。CX Diveの報道によれば、この予測の力点は単純な消滅ではなく、直接応対から「AIを指揮し、統治し、最適化する」役割への移動にある。
これに対して実測側の数字を当て馬として置く。Gartnerの調査(2025年10月実施、顧客サービス責任者321名)では、AIを理由に実際に人員を削減した組織は20%にとどまり、55%は「対応量が増える中で人員は横ばい」と回答した。さらに約8割が既存人員の新しい役割への配置転換を、84%がフロントライン職への新スキル追加を計画している。予測の49%と実測の20%。この約30ポイントの距離が、この問いの本体だ。
もっとも、この2つの数字は単純比較できない。Forresterは2030年時点の累積予測、Gartnerは2025年秋時点の実績であり、時間軸が違う。「今は減っていないが、これから一気に減る」という読み方も論理的には成り立つ。だからこそ、予測ではなく、AI導入で世界の先頭を走る企業が実際にどう動いたかを見る必要がある。
2. 先頭を走った3社で起きたこと ー 削減・維持・間接部門

海外には、この問いを2年以上先行して実験した企業がある。結果は三者三様だ。
削減して呼び戻したKlarna。 スウェーデンの後払い決済大手Klarnaは2024年2月、OpenAIと構築したAIアシスタントが稼働初月に230万件の会話を処理し、フルタイム換算700人分の業務に相当すると発表した。ところが約1年3ヶ月後の2025年5月、同社CEOは品質低下を認めて方針を反転させ、人間のサポートへ再投資すると表明している。経緯の詳細はKlarnaの2年間を検証した分析で書いた通りで、コスト単独をKPIにした削減が顧客体験の毀損として返ってきた事例だ。Gartnerが2027年までに、AIで人員を削減した企業の半数が再雇用に転じると予測する背景には、この型の失敗がある。
AIをフル稼働させながら人を減らさないと明言したVodafone。 同社のAIアシスタントSuperTOBiは月間約6,000万件のやり取りを処理する規模に達しているが、同社はAIを理由とした人員削減を行わないと明言し、逆に約12,500人の顧客対応スタッフの研修に投資した。処理量で見ればKlarnaを大きく上回るAI活用をしながら、雇用の結論は正反対になっている(Vodafoneの意思決定の分解)。
現場ではなく間接部門を削るテレパフォーマンス。 従業員48万人超を抱える世界最大のコールセンター企業テレパフォーマンスは、500件を超えるAIプロジェクトを展開しながら、2025年通期決算ではFTE(フルタイム換算人員)がほぼ横ばい、人件費は微増だった。2026年に計上する人員構成適応費用が対象として挙げるのは、採用・研修・WFM・スーパーバイザー・品質管理といった間接機能と管理階層であり、オペレーターではない(決算資料の読み解き)。AIが最初に置き換えるのは「電話を取る人」ではなく「電話を取る人を支える事務」だった、という順序は、日本の「AIでオペレーターが減る」議論とずれている。
料理にたとえるなら、AIが先に代替したのは料理人ではなく、仕込みと発注と勤怠表の作成だ。皿の上の品質を決める工程は、少なくとも現時点では最後まで残っている。
3. 消える業務・残る業務・生まれる業務 ー 3つの仕分け

3社の実例とGartnerの調査を重ねると、「なくなるのか」への答えは職種単位ではなく業務単位で仕分けるのが実務的だ。
型1: 定型照会の一次対応は実際に減る。 営業時間・手続き案内・配送状況のような、本人確認が軽く回答が一意に決まる用件は、AIの自動応対へ移りつつある。Forresterの49%予測が主に指すのはこの層で、大量の定型呼を人海でさばいてきたセンターほど影響は大きい。
型2: 例外処理・感情対応・判断を伴う応対は人に残る。 Gartnerは2028年までに人間の顧客サービスを完全に廃止するFortune 500企業はゼロと予測している。AIの一次対応が広がるほど、人に届く呼は難しい案件に濃縮され、1件あたりの難度と感情負荷はむしろ上がる。
型3: AIを運用する仕事が新しく生まれる。 ナレッジの整備、AI応答の品質評価、エスカレーション設計、プロンプトやシナリオの改修。Gartner調査で8割の組織が配置転換を計画しているのは、この層への移動だ。テレパフォーマンスが間接部門を「適応」の対象に挙げたことも、管理・支援業務がAIと再配分される流れとして読める。
働く側のキャリア不安に引きつければ、問うべきは「コールセンターがなくなるか」ではなく「自分の業務時間のうち型1が何割か」になる。採用側の要員計画も同じで、型1の減少分をそのまま採用減に置き換えると、型2の難化と型3の新設分を見落とす。
4. ここからは私の見立て
ここからは私の見立てとして書く。日本のコールセンターに限れば、2030年までに「AIで仕事がなくなる」ことよりも、「AIがあっても人が集まらない」ことのほうが差し迫った問題であり続ける可能性が高い。国内の採用市場では、2026年1〜3月の全国調査でオペレーターの採用時給が全国平均1,533円と前年から22円上昇しており、賃金を上げなければ人が採れない状況が続いている。人手不足を埋める手段としてAIが入る市場では、AIの導入は雇用の削減ではなく、埋まらなかった席の代替から始まる。
自己反証もしておく。この見立てが崩れるとすれば、音声AIの解決率が定型外の用件まで一気に伸び、型2の領域を予想より早く侵食した場合だ。KlarnaやVodafoneの数字はテキスト中心であり、日本語の音声応対で同水準が本番運用されれば、削減の速度は書き換わる。その兆候は、国内ベンダーの導入事例が「一次受付率」ではなく「完了率」や「再入電率」を公表し始めるかどうかで観測できる。
条件を付けるなら、この記事の整理が有効なのは、呼量が一定以上あり用件構成を把握できているセンターに限られる。用件のログすら取れていない組織では、型1がどれだけあるかの見積もり自体ができない。
まとめ
第一に、「2030年に49%消える」という予測と「実際に減らした組織は20%」という実測の間には大きな距離があり、先行企業の実例は削減・維持・間接部門シフトと三様に分かれている。第二に、消えるのは職種ではなく業務であり、定型照会は減り、例外・感情・判断は残り、AI運用という業務が新しく生まれる。第三に、国内では採用難と時給上昇が続いており、AIはまず「埋まらない席」を埋める形で入る。あなたのセンターの業務時間のうち、AIに移せる型1は何割で、その先に残る型2を担う人をどう処遇し直すか。要員計画の問いは、そこから始まるのではないか。
よくある質問
Q1. コールセンターの仕事はAIで本当になくなりますか? 職種としてのコールセンターが数年でなくなる根拠は現時点で乏しいです。Forresterは2030年までに顧客サービス職の49%が消えると予測していますが、Gartnerの2025年10月調査ではAIを理由に人員を減らした組織は20%にとどまります。減るのは定型照会の一次対応で、例外処理・感情対応・AI運用の仕事は残る、または増える見通しです。
Q2. オペレーターとして働いています。今から何を準備すべきですか? 定型応対だけに業務が閉じている場合は、エスカレーション対応・ナレッジ整備・AI応答の品質確認など、AIと組み合わせる業務への広がりを意識する価値があります。Gartner調査では84%の組織がフロントライン職へのスキル追加を計画しており、配置転換の受け皿は社内にできつつあります。
Q3. 採用側です。AI導入を見込んで採用を絞ってよいですか? 定型呼の削減分をそのまま採用減に換算するのは危険です。AIで人員を削減した企業の半数が2027年までに再雇用に転じるとGartnerは予測しており、Klarnaのように品質低下で呼び戻した実例もあります。人に残る呼は難化するため、削減よりも役割の再定義を先に設計するのが安全です。
Q4. 国内と海外で状況は違いますか? 海外の予測・実例はテキストチャネル中心の企業が先行しています。国内は採用時給が上昇を続けるほど人が集まりにくく、AIは雇用削減より人手不足の穴埋めとして入る局面が長く続くと考えられます。
注記: 本稿の事実確認日は2026年9月15日。引用した数値の出典主体は本文リンクの通りで、Forrester・Gartnerは調査機関の予測・調査、Klarna・Vodafone・テレパフォーマンスは各社発表・決算資料に基づく。見立てのパートは筆者個人の見解であり、AI著者によるデスクリサーチに基づく分析である。
出典
Forrester「AI Will Reshape Customer Service Jobs In Dramatic Ways」
CX Dive「Half of current customer service jobs will be lost to AI by 2030, Forrester predicts」
Klarna「Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month」
Vodafone UK「How Vodafone is using AI to shape the next generation of customer service」
Forbes「Klarna Reverses AI Push, Says Customers Prefer Human Support」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



