2030年、カスタマーサポートの仕事は半減する?米国ではすでに求人1割減。「消える」ではなく「形が変わる」を読み解く

求人はすでに減り始めている
米CX Diveが報じた記事が、コンタクトセンター業界にとって見過ごせないデータを示した。Indeed Hiring Labのデータによれば、米国のカスタマーサービス関連職の求人は、パンデミック前の水準を約10%下回っている。一方で求人全体はパンデミック前を上回っており、「全体は増えているのに、カスタマーサービスだけが減っている」という構図だ。
記事中ではForrester社の予測も引用されている。AIによって2030年までにカスタマーサポート関連の仕事が半減し、小売や事務サポートサービスなどの業界が同様に大きな打撃を受けるという内容だ。2030年まであと4年。この予測をどう受け止めるべきか。
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https://youtu.be/HRyI3ogck8Y?si=PVBeFUy_ivqf7DEE
「全員がいなくなる」のではなく「採用が止まる」
半減という言葉から想像しがちなのは、今いるオペレーターの半分が職を失う光景だ。しかし実際に起きるのは、おそらくもっと静かな変化だろう。
AIの支援によって、これまで10人で受けていた問い合わせ量を5人で、あるいは3人で受けられるようになる。すると企業はまず新規採用を止める。退職などの自然減はそのまま補充されず、既存メンバーで回る体制に徐々に寄っていく。「求人が1割減っている」という冒頭のデータは、まさにこのプロセスがすでに始まっていることを示している。
ただし、一直線に進むとも限らない。AIによる大幅な人員削減の象徴として語られたKlarnaが、顧客サービス品質の低下を受けて人間の再雇用に踏み切ったことはよく知られている。「AIだけでいける」という期待が先行し、その後に揺り戻しが来た例だ。減る領域と残る領域ははっきり分かれており、判断・感情対応・例外処理といった業務には人が残る。「ゼロになる」のではなく「形が変わる」と捉えるのが、現時点では最も実態に近い。
生まれる仕事。「AIをマネジメントする人材」
形が変わるなら、新しく生まれる役割もある。その代表が「AIをマネジメントする人材」だ。
これまでのマネージャーの仕事は人間のマネジメントだった。これからは、AIをメンバーとしてどう稼働させるか、どの業務にどう配置するか、トークン(AI利用量)をどう管理するかという業務が加わる。筆者自身、数年前にベンダー在籍時に「CS AIマネージャー」という職種の採用を試みたことがあるが、当時は採用に至らなかった。いま同じ職種を募集すれば、状況はまったく違うはずだ。行政でもAI統括の専門担当者を設置する自治体が出てきており、この流れは民間・行政を問わず加速するとみられる。
一方で、現在のセンター人材がそのままスライドできるかというと、そう単純ではない。プロンプト設計やAIの品質管理は従来のオペレーション業務とは異なるスキルセットであり、新しいスキル獲得に前向きになれる人とそうでない人の差は、今後開いていく可能性が高い。
音声AIの現在地。当事者は「新しいIVR」と言い切る
では、半減を実現するだけの技術は追いついているのか。示唆的なのが、企業の電話対応向け音声AI基盤を開発するRimeが2,400万ドルのシリーズAを調達したというニュースだ。
注目すべきは資金調達額よりも、同社CEOのコメントである。「音声技術はまだ企業における電話対応の大部分を自動化できるレベルには達していない」「音声AIエージェントとの会話は、どちらかというと音声の質が向上した新しいIVR(自動音声応答システム)のようなものだ」。調達を発表した当事者が、自ら技術の限界を率直に語っている。期待が先行しがちな音声AI領域において、この現在地認識は貴重だ。
AI以前の課題。「同じ話を二度させないで」
技術の進化と並んで見落とせないのが、より地味な構造課題だ。No Jitterが報じたGenesysの調査では、ほぼ全ての消費者が「自分の情報が複数のチャネルで引き継がれ、同じことを繰り返す必要がないこと」を期待していると回答した。
チャットで問い合わせて解決できず、電話に促され、電話ではチャットでの会話が引き継がれておらず、また最初から同じ説明をする。誰もが経験するこの分断の背景には、チャネルごとに分かれたデータとレガシーシステムがある。どれだけAIが進化しても、データが分断されたままでは顧客体験は途切れる。生成AIの登場によって「そもそもデータが引き継がれていない」「クラウド化が進んでいない」という積年の課題が改めて顕在化した、という側面もある。AIの性能だけを見るのではなく、データ基盤とナレッジをセットで整えることが、結局は近道になる。
日本はどうなるか
日本の場合、米国と同じ「削減」の文脈よりも、人手不足によって「埋まらない席をAIで補う」という文脈が先に来る可能性が高い。方向性は同じでも、動機とスピードは異なる。
それでも、定型対応はAIに寄せ、人はより難しい対応と運用設計に寄っていくという大きな流れは変わらない。2030年に本当に半減しているかは蓋を開けてみなければわからないが、「求人の減少はすでに始まっている」「役割の再編は避けられない」という2点は、データが示す事実として押さえておきたい。
まとめ
米国のカスタマーサービス求人はパンデミック前比で約1割減。求人全体は増えており、この職種だけが縮小している
Forresterは2030年までにカスタマーサポート関連職の半減を予測。ただしKlarnaの再雇用が示すように、一直線には進まない
実際に起きるのは「全員がいなくなる」ではなく「採用が止まり、少人数で回る形への移行」。判断・感情対応・例外処理には人が残る
「CS AIマネージャー」のような、AIをマネジメントする新しい役割の需要は高まっていく
音声AIの現在地は、当事者のRime CEOいわく「音声の質が向上した新しいIVR」。技術はまだ発展途上
消費者が求めているのはチャネルをまたいだ情報引き継ぎという当たり前の体験。AI以前にデータ分断の解消が課題
本記事は、CC AI Lab編集長・千葉によるPodcastの内容をもとに、オウンドメディア掲載用に再構成・加筆したものです。


