「電話等がつながらない」を消費者庁が名指しした。解約妨害を違法行為にする中間取りまとめ案を、コンタクトセンターの解約窓口から読む

2026年8月28日、日本経済新聞は消費者庁がサブスクリプションなど継続的に提供される商品・サービスの解約を不当に妨害する行為を法律で禁止する方針だと報じました。国の認定を受けた適格消費者団体が、事業者に禁止行為の差し止めを請求できるようにする考えだとしています。
報道の土台になっているのは、8月24日に開かれた消費者庁「デジタル取引・特定商取引法等検討会」の第8回会合で示された中間取りまとめ(案)です。案は解約場面の課題をこう書いています。「法令又は契約により申込みの撤回、契約の解除又は解約が認められる場面であっても、電話等がつながらないこと、連絡手段が限定されていること、手続が合理的理由なく過度に複雑であること等により、消費者による権利行使が阻害されている事例がみられる」。そのうえで、「解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比して合理的理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為について、取引慣行も踏まえつつ、違法行為として規律の対象とすべきである」としています。
時系列を先に押さえます。通信販売の定期購入をめぐっては、令和3年(2021年)の特定商取引法改正で最終確認画面の表示義務が設けられました。しかし案自身が「同改正後も、定期購入に関する消費生活相談件数は高水準で推移している」と認めています。国民生活センターの集計によると、通信販売での定期購入に関するPIO-NETの相談件数は2023年度80,315件、2024年度89,401件、2025年度93,065件と増え続けています。検討会は2026年1月22日に第1回が開かれ、4月16日の第4回で「契約・解約場面での規律のあり方」が議題になり、8月24日の第8回で中間取りまとめ案が示されました。報道によれば、消費者庁は早ければ来年の通常国会への法案提出を目指しています。
「電話等がつながらない」「連絡手段が限定されている」。名指しされているのは、コンタクトセンターの解約窓口そのものです。そこで立てたい問いは、この案が法律になったとき、解約窓口を持つセンターは何を変えなければならないのか、です。私の答えは、変えるべきは引き止めトークの文言より先に、解約の導線と待ち時間を「契約時と比べて」測れる状態にすることである。ただし案はまだ案であり、電話窓口をどこまで射程に入れるかは案の脚注が「引き続き検討」と留保しています。断定できる部分と、まだ決まっていない部分を分けて読みます。
この記事の要点
①中間取りまとめ案が違法行為として規律すべきとしたのは「解約手続を不当に遅延させる行為」と「契約手続に比して合理的理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為」。判定の物差しは絶対基準ではなく、契約時の手続との相対比較に置かれている
②米国では2025年にAmazonが「サインアップと同じ方法で解約できること」を条件に25億ドルで和解し、Uberは「最大23画面・32操作」の解約導線で提訴された。日本の案の「契約手続に比して」という物差しは、米国の「加入時と少なくとも同程度に容易」と同じ型である
③解約窓口の有人導線を絞るほど完結率は上がる。当ラボが8月に記録した「解約と言えば人が出る」という消費者側の突破テクニックは、この設計の裏返しだった。案が法律になれば、完結率を上げるための導線設計そのものが違法行為の疑いを持たれる
1. 案に書かれていることを、確度ごとに読み分ける

中間取りまとめ案は29ページで、表紙の日付は「令和8年〇月〇日」と伏せ字のままです。解約に関わる記述を、原文の表記と、現時点でどこまで決まっているかに分けて並べます。
案の記述 | 原文の表記 | 現時点の確度・留保 |
|---|---|---|
解約手続の不当な遅延、契約手続に比して過度に複雑な解約手続 | 「違法行為として規律の対象とすべきである」 | 中間取りまとめ案。「主にオンライン上の表示・UIの設計・運用の高度化等に由来する論点(ダークパターン等)」として整理されている |
電話等がつながらない、連絡手段が限定されている | 「消費者による権利行使が阻害されている事例がみられる」 | 「現状と課題」に課題認識として明記。対応策の条文案では「遅延」「複雑」に言い換えられており、電話のつながりにくさ自体を要件化する文言はない |
電話窓口など、インターネット取引以外への射程 | 脚注20「手続的な解約妨害の全てがインターネット取引に特有の問題であるか…については、引き続き検討が必要である」 | 未確定。ネット以外の通信販売に同じ規律を及ぼすかは次の論点 |
返品特約のみを理由に「権利はない」と告げる行為 | 「社会通念上通常必要とされる確認を行うことなく、返品特約のみを理由として法令又は契約上の権利が存在しない旨を告げる行為を、新たに行政処分の対象として規制することが適当」 | 「通信販売一般の規律として検討すべき」。オペレーターの一律回答が該当しうる |
クーリング・オフ後の履行拒否・不当遅延(訪問販売等) | 「それ自体を違反行為として迅速な執行を行うとともに、不当な遅延に当たる日数の基準を示す等の手法」 | 点検商法等が対象。日数基準が示されれば、解約処理の期限に相当する数字が初めて示される |
適格消費者団体の差止請求 | 「今般検討するインターネットを利用した不当な勧誘等の規律についても…適格消費者団体による差止請求の対象とすることを検討すべき」 | 案の本文で差止対象として明記されているのは「不当な勧誘等」。解約妨害を差止対象にする方針は日経の報道による |
サブスクの通知義務・中途解約権 | 脚注19「『現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会』での整理も踏まえる」 | 本案の範囲外。継続的契約に固有の論点は別の検討会に委ねられている |
法案の提出時期 | 案に記載なし | 「早ければ来年の通常国会」は報道による |
この表から読めることが二つあります。第一に、案が違法行為の要件として置いたのは「遅延」と「契約手続との比較での複雑さ」であって、「電話がつながらない」という状態そのものではありません。つながらない窓口は、解約手続を不当に遅延させる行為の一形態として評価される、という読み方になります。第二に、案は主にオンラインのUI設計を念頭に置いており、電話窓口を含む非ネット取引にどこまで及ぼすかは脚注で留保されています。コンタクトセンターが直撃を受けるかどうかは、この脚注の行方で決まります。
現行法との距離も測っておきます。令和4年の消費者契約法改正は、契約締結時だけでなく解除時にも事業者の努力義務を導入し、解除権の行使に必要な情報の提供と、解約料の算定根拠の概要の説明を求めました(第3条第1項第4号、第9条第2項。2023年6月1日施行)。つまり現行法が解約の場面で事業者に求めているのは「説明する努力」までで、解約手続そのものの遅延や複雑さを違法行為と位置づける規律はありません。案が新しいのは、努力義務の外側にあった手続の設計を、行政処分の対象になりうる違法行為へ引き上げようとしている点です。
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