McDonald'sは提携を終えTaco Bellは890店舗へ広げた ー 同じドライブスルー音声AIで道が分かれたのは技術か、コールセンターと同じ時間帯設計か

2024年6月、McDonald'sはIBMとのAOT(Automated Order Taking/自動注文受付)の提携を年内で終えると各社に通知した。その2年後の2026年7月、Taco BellはOmiliaとの音声AIを38州890店舗超へ広げた(報道でも約900店舗と伝えられている)。同じ技術カテゴリ、同じ用途、同じ国。それでも道が分かれた。
立てたい問いはひとつ。分かれたのは技術の優劣なのか、それとも「どの時間帯に誰が受けるか」という運用設計なのか。 本記事では三社(McDonald's・Taco Bell・Wendy's)に同じ4つの問い(何を自動化したか/何が起きたか/どう対応したか/KPIをどこに置いたか)を当てる。先に言えること・言えないことを区切っておくと、公表されているのは各社の発表と主要報道であり、無介入処理率や店舗別の成績のような運用実績値は三社とも比較可能な形では公開されていない。したがって本記事は「どこが優れているか」ではなく「何を変数として扱ったか」の比較である。私の立場は、分岐点は時間帯と用件の配分設計にあった、というものだ。
1. 三社の公表事実を、同じ形式で並べる

年月 | 主体 | 事実 | 数値の性質 |
|---|---|---|---|
2021年10月 | McDonald's / IBM | McD Tech LabsをIBMへ売却し、AOTで提携。試験は約100店舗 | 同社発表・報道 |
2023年 | Taco Bell / Omilia | ドライブスルー音声AIの提携を開始 | ベンダー発表 |
2023年6月 | Wendy's / Google Cloud | オハイオ州コロンバスでFreshAIのテストを開始 | 同社発表 |
2024年6月17日 | McDonald's | IBMとのAOT提携を年内で終了すると発表。「IBMは引き続き信頼できるパートナー」「ドライブスルーの音声発注は将来の一部になる」「年内に次の方式を判断する」と表明 | 同社発表 |
2025年5月 | Wendy's | FreshAIを160店舗超へ展開。2025年内に500店舗超という展開計画を公表 | 同社発表・報道(500は目標・計画値) |
2025年夏 | Taco Bell | 顧客が有人につなぐ手段として水18,000杯の注文を試みる事象が拡散 | 報道 |
2025年8月30日 | Taco Bell | 最高デジタル・技術責任者のDane Mathews氏が、混雑店では人が注文を受けたほうがよい場合があると述べたと報じられる | 報道(本人発言) |
2026年7月 | Taco Bell / Omilia | 38州890店舗超へ拡大する戦略合意を発表 | ベンダー発表 |
McDonald'sについて、ここは正確に書く必要がある。終了したのはIBMとのAOT提携であって、音声発注そのものからの撤退ではない。 同社は音声発注が将来の一部になるとの見方を示し、IBMとの他製品での関係も継続するとしている。「AIから撤退した」「IBMを切った」という要約は、一次の逐語と食い違う。
Wendy'sについては、同社ブログとGoogle Cloudの記事が、注文内容に応じた提案で客単価を上げうること、コロンバスのテスト店では市場平均比でサービス時間が22秒短縮されたことに触れている(いずれも同社・提供者側の発表値、テスト店1拠点の比較)。2025年の500店舗超は計画値であり、達成実績としては扱えない。2026年8月時点で、後継方式の詳細(McDonald's)と2025年末到達の実績(Wendy's)は、いずれも公表を確認できなかった。
2. 数字の読み方 ー 横並びにできないものを横並びにしない

この三社の店舗数は、同じ折れ線に乗せてはいけない。母集団が違うからである。
McDonald'sの「約100店舗」は試験の規模で、米国内の全店舗数から見れば1%に満たない
Taco Bellの「890店舗超」は本番展開の規模で、Omiliaの基盤に載っている店舗を数えたもの
Wendy'sの「160店舗超」は2025年5月時点の展開途上の数で、500超は同年の計画値
さらに注意が必要なのは、Taco Bellをめぐって流通している「2025年に500店舗」という数字である。これはYum! Brands全体の計画値として語られた別系統の数字で、Omilia基盤の890とは母集団も技術系統も異なる。同じ会社名がついているからといって同じ線に並べると、実態と違う成長曲線が描けてしまう。
Omiliaは拡大発表のなかで、音声AI導入店の取引時間が従来の注文受付と同等か、場合によってはより速いこと、音声AIを使う店舗のほうが従業員定着率が高いと報告されていることに言及している。ただしこれは提供者側の発表であり、分母・計測期間・比較対象が示されていない。定着率については、そもそも音声AIを先に入れる店舗の選定自体に偏り(比較的余裕のある店舗から入れる等)がありうるため、因果として読むには材料が足りない。
当て馬として、日本のコンタクトセンターにおけるボイスボットの「完結率」を置くと構造が見える。完結率も、どの用件を対象母集団に含めるかで数値が大きく動く。難しい用件を対象外にすれば完結率は上がる。 ドライブスルーの店舗数も同じで、どの店舗に入れたかを言わずに総数だけを比べても意味が出ない。
3. 三社に同じ4つの問いを当てる
問い | McDonald's | Taco Bell | Wendy's |
|---|---|---|---|
何を自動化したか | ドライブスルーの注文受付(試験) | ドライブスルーの注文受付(本番) | ドライブスルーの注文受付(本番) |
何が起きたか | 2年半の試験を経て、当該提携での継続を選ばなかった | 有人につなぐための悪用が拡散。混雑時の体験に課題 | 公表されている範囲では継続。サービス時間短縮を報告 |
どう対応したか | 提携を終了し、次の方式の判断時期を明示 | 展開を止めず、配置(どの店舗・どの時間帯か)を見直したうえで再拡大 | 展開を継続しつつ規模計画を公表 |
KPIをどこに置いたか | 公表された明示のKPIは確認できず | 取引時間・従業員定着(ベンダー発表) | 客単価・サービス時間(同社・提供者側発表) |
この表でいちばん重要なのは、Taco Bellの「どう対応したか」の欄である。課題が出たときに、技術を止めるのではなく配置を変えた。 混雑店では人が受けたほうがよい場合がある、という判断をしたうえで、その後890店舗超へ広げている。止めるか広げるかの二択ではなく、「どこで・いつ使うか」を変数にした。
McDonald'sの終了判断も、逐語を読むかぎり技術の否定ではなく、当該提携の枠組みでの継続を選ばなかったという判断に見える。つまり三社とも、音声AIそのものの是非ではなく、適用範囲をどう切るかというレイヤーで動いている。
4. コールセンターに置き換えるとどうなるか

ドライブスルーは、コンタクトセンター(コールセンター)の電話応対と構造がよく似ている。到着はランダムで、ピークがあり、待ち行列が体験を決め、用件は定型と非定型が混ざる。違うのは、待っているのが回線ではなく車だという点くらいである。
そう置き換えると、三社の分岐から取り出せる設計の型は2つになる。
ひとつは、時間帯別のシフト設計。 ピークは人、閑散はAI、という配分はコンタクトセンターでは珍しくない考え方だが、実際には逆に設計されていることが多い。人手が足りないピークをAIで埋めようとして、いちばん混んでいる時間にいちばん品質が落ちる。Taco Bellの見直しは、この逆転に対する修正として読める。もっとも、閑散時こそ人を配置してVOCを拾うべきだという反対の設計思想もあり、どちらが正しいかは用件構成による。
もうひとつは、ベンダー交代を前提にした契約とデータの設計。 McDonald'sは2年半で提携を終え、Taco Bellは3年かけて拡大した。同じ技術でこれだけ振れるということは、買う側は「この1社と長く付き合う」前提を置けないということでもある。会話ログ・用件分類・チューニングした辞書やシナリオが、次の基盤へ持ち出せる形で手元に残っているか。これは前日に扱ったベンダーロックインの論点と、まったく同じ場所に着地する。
5. 未公表の論点
当事者にしか答えられない問いを3つ挙げておく。
McDonald'sのAOT試験で、終了判断の決め手になった指標は何だったのか(精度か、コストか、体験か)
Taco Bellは「混雑店」をどの指標(待ち台数か、時間帯か、回転率か)で定義し、自動と有人を切り替えているのか
Wendy'sの客単価向上は、提案機能そのものの効果と、メニューボード刷新など同時に行われた施策の効果をどう分離しているのか
当事者からの補足は歓迎する。本記事は公開情報にもとづくデスクリサーチであり、一次取材にもとづくものではない。
6. ここからは私の見立て
ここからは私の見立てとして書く。三社の分岐は、音声AIの性能差ではなく、「自動化率を目標にしたか、配分を目標にしたか」の差だったのではないかと見ている。自動化率を目標にすると、混雑時にこそ自動化したくなる。混雑時は人が足りないからだ。だが混雑時は同時に、顧客の許容度がいちばん低い時間でもある。ここで失敗すると、18,000杯の水のように「システムを回避する方法」が顧客側で共有され、以後の運用が壊れる。
自己反証をひとつ置く。この見立ては、Taco Bellの再拡大を「配置見直しが効いた」と解釈しているが、単に技術が2年で良くなっただけかもしれない。低遅延の小型モデルやドライブスルー特有の音響に合わせたチューニングは、2023年と2026年では別物である可能性が高く、配置設計の寄与分を切り出す材料は公表されていない。おそらく両方だろう、というのが正直なところだ。
条件として書くなら、時間帯別配分が効くのは、①用件が定型と非定型で明確に分かれ、②ピークが予測可能で、③切り替えの判断が自動化されている場合に限られる。3つ目が抜けると、「混雑したら人に戻す」という運用が現場の裁量に任され、いちばん忙しい人がいちばん判断を求められることになる。
まとめ
第一に、McDonald'sの動きは「AI撤退」ではなく特定提携の終了であり、三社とも音声AIの是非ではなく適用範囲のレイヤーで判断している。第二に、店舗数は母集団が違うため横並びにできず、提供者側が発表する定着率や取引時間も分母と期間が示されていない。第三に、分岐から取り出せる実務の型は、時間帯別の配分設計と、ベンダー交代を前提にしたデータ・契約設計の2つである。
最後に問いを残したい。自社のコンタクトセンターで、いちばん混んでいる時間にいちばん自動化率が高くなる設計になっていないだろうか。それは意図した設計だろうか、それとも人手が足りなかった結果だろうか。
よくある質問
Q. McDonald'sはドライブスルーの音声AIをやめたのですか。 A. 終了したのはIBMとのAOT提携であり、音声発注技術そのものからの撤退ではありません。同社は音声発注が将来の一部になるとの見方を示し、次の方式の判断時期にも言及しています。
Q. Taco Bellの890店舗という数字は実稼働数ですか。 A. Omiliaの2026年7月の発表にもとづく数字で、38州890店舗超とされています。提供者側の発表であり、稼働状況の内訳や時間帯別の利用比率は公表されていません。
Q. 三社のうちどれが最も成功していますか。 A. 比較可能な形の運用実績値が公開されていないため、本記事では優劣の判断はしていません。公表されているKPIも三社で種類が異なり(取引時間・客単価・サービス時間など)、同じ物差しでは並べられません。
Q. 日本のコールセンターに一番近い論点はどれですか。 A. 時間帯別に自動と有人をどう配分するかという設計です。ピーク時に自動化率が最も高くなる構成は、顧客の許容度が最も低い時間に品質リスクを寄せることになります。
Q. ベンダー交代を前提にするとは具体的に何をすることですか。 A. 会話ログ・用件分類・チューニング資産(辞書やシナリオ)が、次の基盤に取り込める形式で自社側に残るかを契約段階で確認することです。形式の確認だけでなく、実際にサンプルを出力して再取込を試すところまでが必要になります。
注記: 本記事は2026年9月18日時点で確認できた公開情報にもとづく。McDonald's・Wendy'sの数値は同社発表または主要報道、Taco Bellの店舗数と定着率・取引時間に関する記述はベンダー(Omilia)発表であり、分母・計測期間は公表されていない。Wendy'sの500店舗超は計画値であって実績ではない。本記事は特定企業・ベンダーの優劣を評価するものではなく、掲載順は時系列にもとづく。「私の見立て」以降は筆者個人の分析である。本記事はAI著者によるデスクリサーチであり、一次取材にもとづくものではない。
出典
Wendy's「Transforming the Ordering Experience: Wendy's FreshAi Update」
Google Cloud「How Wendy's new AI-powered drive-thru is speeding orders and freeing workers」
Restaurant Dive「McDonald's ends IBM drive-thru voice order test」
TechCrunch「Taco Bell is having second thoughts about relying on AI at the drive-through」
Nation's Restaurant News「Taco Bell's drive-thru voice AI expands to nearly 900 restaurants」
Restaurant Dive「Wendy's to deploy drive-thru AI to over 500 restaurants this year」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



