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「この店のこの時間は音声AIで」。Taco Bellはドライブスルーの音声AIを店ごとに使い分けて890店舗へ

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McDonald'sは提携を終えTaco Bellは890店舗へ広げた ー 同じドライブスルー音声AIで道が分かれたのは技術か、コールセンターと同じ時間帯設計か

2025年の夏、米国のSNSで1本の動画が広まりました。Taco Bellのドライブスルーで、客がスピーカーに向かって「水を18,000杯」と注文しようとする。音声AIの注文受付が止まり、店の従業員が代わりに応対する。動画のタイトルは「AIを回避する方法」で、再生は数千万回に達しました(Nation's Restaurant News 2025年9月2日)。

その直後、Taco Bellの最高デジタル・技術責任者はWall Street Journalの取材に、正直に答えています。「ときどきがっかりさせられる。でも、ときどき本当に驚かされる」。そして、混雑して列が長い店では人が注文を受けたほうがいい場合がある、と話しました。店舗のチームには「この店では、この時間帯は音声AIを使うことを勧める」、あるいは「音声AIをよく見て、必要なら割って入るように」と指導していくといいます(TechCrunch 2025年8月30日、原文英語、編集部訳)。

それから1年たたない2026年7月。Taco Bellの音声AIは38州890店舗超で動いていました(Omilia 2026年7月7日)。使う場面を絞ると決めたあとに、使う店は増えた。この順番が、この事例の面白いところです。

ドライブスルーは、車が並ぶコールセンター

ドライブスルーは、車が並ぶコールセンター

ドライブスルーの注文受付は、コンタクトセンターの電話応対とよく似ています。客の到着はばらばらで、昼と夜にピークが来て、待ち行列の長さが体験を決める。用件は「いつものセット」のような定型から、細かいカスタマイズまで混ざります。違うのは、待っているのが回線ではなく車だという点です。

米国の大手ファストフードは、2021年前後から相次いでこの注文受付に音声AIを入れ始めました。McDonald'sは2021年からIBMと組み、Wendy'sも同じ2021年にGoogleと組んでいます(NBC News 2024年6月、Wendy's 2025年5月2日)。Taco Bellの親会社Yum! Brandsも、2024年半ばの時点で2年以上の試験を重ねていました(Yum! Brands 2024年7月31日)。

同じ時期に、同じ用途で、同じ国。それでも3社の道筋は少しずつ違いました。中心はTaco Bellですが、ほかの2社の動きも並べて追います。

試験、拡大、つまずき、使い分け

2年あまりの試験を経て、100店舗超から

Taco Bellの音声AIは、2年以上の調整と試験を経て、2024年7月の時点で13州の100店舗超に入っていました。Yum! Brandsは同年末までに数百店舗へ広げる計画を出し、最高イノベーション責任者は「2年以上かけて微調整と試験を重ねてきたので、効果には自信がある」と話しています。Taco Bellの最高デジタル・技術責任者が挙げた狙いは、「店舗スタッフの負担を軽くすること」でした(Yum! Brands 2024年7月31日、原文英語、編集部訳)。

技術の提供元は、音声AIのOmiliaです。両社の関係は2023年に始まりました(Nation's Restaurant News 2026年7月8日)。

同じ年、McDonald'sは試験を終える

Taco Bellが100店舗超に広げる1か月前の2024年6月、McDonald'sは100店舗超で続けてきたIBMとの自動注文受付の試験を終えると加盟店に伝えました。社内文書は、IBMを「信頼できるパートナー」と呼び、ほかの製品は今後も使い続けると書いています。音声注文そのものも手放していません。同社は「ドライブスルーの音声注文は、私たちの店舗の将来の一部になる」と述べ、年内に次の方式を決めるとしました(NBC News、Restaurant Dive 2024年6月17日、原文英語、編集部訳)。

終わらせたのは、特定の組み合わせでの試験でした。音声で注文を受けるという方向は、そのまま残しています。

Wendy'sは1店舗から少しずつ

Wendy'sは2023年6月、オハイオ州コロンバスの直営1店舗で、Google Cloudの生成AIを使った「FreshAI」の試験を始めました(Google Cloud 2023年9月6日)。2024年10月にはオハイオ州とフロリダ州の直営36店舗に広がり、最初の試験店ではドライブスルーの提供時間が地域平均より22秒速かったと伝えられています。同社の最高情報責任者は「やることはすべて、お客様とクルーの目線で優先順位を付けている」と話しています(Fortune 2024年10月15日、原文英語、編集部訳)。

2025年夏、18,000杯の水

Taco Bellの音声AIが数百店舗に広がった2025年の夏、冒頭の動画が出回ります。客の側に「AIを避けて人につなぐ方法」が共有されたわけです。

このとき同社がとったのは、止めることでも、そのまま押し切ることでもありませんでした。最高デジタル・技術責任者は「結局のところ、まだ本当に、本当に初期だ。私たちもそう感じているし、ほかのブランドもそう感じていると思う」と語り、どこで使い、どこで使わないかを考え直していると明かしました。広報は「この技術は、引き続き私たちの将来の中核だと考えている」とコメントしています(Nation's Restaurant News 2025年9月2日、原文英語、編集部訳)。加盟店ごとに自分たちのやり方を選ぶ余地も残しました(TechCrunch)。

2026年、890店舗超と、McDonald'sの再挑戦

2026年7月、Taco BellとOmiliaは米国のドライブスルー網で展開を続ける新しい合意を発表し、その時点で38州890店舗超に達していました。最高デジタル・技術責任者は「Omiliaの基盤は、米国の選ばれた店舗で、規模を出しても通用することを示した」と述べています(Omilia 2026年7月7日、原文英語、編集部訳)。「選ばれた店舗で」という言い方に、前年の使い分けの方針がそのまま残っています。

McDonald'sも戻ってきました。2026年9月の投資家向け説明会で、同社は店舗運営のAI基盤「ArchIQ」の一部として、英語とスペイン語で注文を受ける音声AI「Archy」を紹介しています。グローバル最高情報責任者は、初期の試験店では精度が90%を超え、ドライブスルーの顧客満足度が全国の傾向を上回っていると話しました(Restaurant Dive 2026年9月25日)。IBMとの試験を終えてから、2年あまりでの再挑戦です。

時期 出来事
2021年 McDonald'sがIBMと、Wendy'sがGoogleと組む
2024年半ばまで Yum! BrandsがTaco Bellで2年以上、音声AIの試験を重ねる
2023年 Taco BellとOmiliaの関係が始まる。Wendy'sがコロンバスの1店舗で試験開始
2024年6月 McDonald'sがIBMとの試験(100店舗超)を終えると加盟店に通知。音声注文は「将来の一部」
2024年7月 Taco Bellの音声AIが13州100店舗超に。年内に数百店舗へ広げる計画
2024年10月 Wendy'sが2州の直営36店舗に
2025年5月 Wendy'sが160店舗超に。年内500店舗超を計画
2025年夏 18,000杯の水の動画。Taco Bellは店と時間帯ごとの使い分けへ
2026年7月 Taco Bellが38州890店舗超。米国のドライブスルー網で展開を続ける合意
2026年9月 McDonald'sが自社の音声AI「Archy」を投資家に紹介

いま何をしているのか

Taco Bellの音声AIは、ドライブスルーのスピーカーで注文を受けます。店ごとのメニュー、その時点の在庫、期間限定の商品に合わせて応答を変え、メニューが変わっても手作業で学習し直す必要はないとされています。ドライブスルー特有の雑音に合わせた小型の言語モデルで聞き取り、俗語や途中での注文の変更、細かいカスタマイズにも対応します(Omilia)。

運用の考え方は、2025年の発言のとおりです。全店一律に任せるのではなく、店と時間帯ごとに「音声AIで受ける」「人が見ていて、必要なら割って入る」を決め、本部がそれを指導する。混雑して列が長い店では、人が受ける選択肢も残します(TechCrunch)。

Wendy'sのFreshAIは、Googleの大規模言語モデルの上に作られ、「Wendy」の愛称で呼ばれています。注文を受けて質問に答え、2025年5月までにスペイン語にも対応しました(Wendy's)。McDonald'sのArchyは、在庫管理や調理機器の監視、注文の重さで誤りを見つける仕組みと同じ基盤に載り、展開は店舗の条件に応じて進めるとしています(Restaurant Dive 2026年9月25日)。

いま出ている効果

いま出ている効果

Taco Bellの店舗数は、2024年7月の100店舗超から、2026年7月の890店舗超へ。公表値から計算すると、2年でおよそ9倍です。しかもその間に、混む店では人が受けるという線を引いています。使わない店と時間帯を先に決めたことが、使う店を増やす後押しになった。編集部は数字の伸びをそう読んでいます。

効果について、Omiliaは、音声AIでの注文にかかる時間が従来の注文受付と同じか、場合によっては速いこと、音声AIを入れた店舗のほうが顧客満足度と従業員の定着率が高いことを挙げています(Omilia)。ここで目を引くのは、物差しが「何割を自動で受けたか」ではなく、注文時間、客の満足、スタッフが辞めないかに置かれている点です。2024年に掲げた狙い「店舗スタッフの負担を軽くする」と、測っているものがきちんとつながっています。

Wendy'sは2025年5月時点で160店舗超にFreshAIが入り、年内に500店舗超へ広げる計画を示しました(Restaurant Dive 2025年5月2日)。1日に数万件の注文を受けています(Wendy's)。当時のCEO、Kirk Tanner氏は決算説明会で、FreshAIが注文内容に合わせて追加の品を提案し、客単価を上げられると説明しました。店舗では、従業員が提供の速さと正確さに集中できるようになり、注文の正確さと効率が上がったと伝えられています(Restaurant Dive 2025年5月2日)。お客様からは「本物の人とやり取りするより良いくらい」という声も届いているといいます(Wendy's)。

McDonald'sのArchyは、まだ試験の段階です。同社は広く展開すれば1週間に少なくとも50時間分の人手が空くと見込んでいます(Restaurant Dive 2026年9月25日)。これは実績ではなく見込みの数字です。

数字以外の変化もあります。18,000杯の水の動画は、客が「人につなぐ方法」を探していたことを示しました。Taco Bellはそれを技術の失敗としてだけ扱わず、人に戻す場面を設計に組み込むきっかけにしています。

何が効いたのか

ここからは書き手の見立てです。Taco Bellを中心に、3社の動きから型を3つ抜き出します。

型1 入れるかどうかではなく、どの店のどの時間に使うかを決める

Taco Bellは、音声AIを全店一律の仕組みとして扱うのをやめ、店と時間帯の組み合わせで判断する形にしました。混雑して列が長いときは、客の待てる時間が一番短く、AIが聞き返すことの重みが一番大きくなる時間です。そこを人に任せると決めたことで、残りの時間帯ではAIを安心して動かせる。使わない場面を先に決めたことが、拡大の土台になったと見ています。

型2 やめるのは技術ではなく、組み合わせ

McDonald'sは2024年にIBMとの試験を終えましたが、「音声注文は将来の一部」と言い切り、2年後には自社のAI基盤の一部として音声AIを出し直しました。終わらせたのは特定の相手との特定の試験で、音声で注文を受けるという方向ではありません。試験をやめる判断と、方向をやめる判断を分けて伝えたことで、2回目の挑戦に入りやすくなっています。

型3 人に戻る道を、客より先に用意する

18,000杯の水の動画は、客が自分で「人につなぐ方法」を編み出した記録でもあります。客がAIを回避する方法を探し始める前に、店の側が「この場面は人が受ける」「AIの応対を見ていて割って入る」と決めておく。Taco Bellの指導方針は、その順番を取り戻す打ち手だったと読めます。

自分たちのコールセンターに引き寄せるなら

自分たちのコールセンターに引き寄せるなら

同じコンタクトセンターやカスタマーサポートの方に向けて、問いを3つ置きます。

1つ目は時間帯の問いです。あなたのセンターでボイスボットの受け持ちが一番多いのは、何時台ですか。人が足りないピークにボットの比率が上がる設計になっていないか、時間帯別に一度並べてみる価値があります。

2つ目は戻り道の問いです。お客様が「オペレーターにつないで」と言う前に、センターの側でボットから人へ渡す条件を決めていますか。ボットを迂回する裏技がお客様の間で共有されていたら、それは戻り道が足りない合図です。

3つ目は物差しの問いです。ボイスボットの効果を、自動で受けた割合だけで測っていませんか。Taco Bellが挙げたのは、注文にかかる時間、お客様の満足、スタッフの定着でした。導入の目的と同じ言葉で効果を測れているかを確かめたいところです。

業界の外でも使える考え方を2つ挙げます。

1つは「全面導入か撤退かの二択にしない」ことです。新しい仕組みは、場所と時間で区切れば、うまくいく場面から確実に広げられます。店舗の無人レジでも、病院の受付機でも同じです。

もう1つは「やめるときは、何をやめたのかを言葉にする」ことです。相手を替えるのか、方式を替えるのか、方向そのものをやめるのか。ここを分けて伝えておけば、次の挑戦で社内と現場の協力を得やすくなります。

まとめ

Taco Bellは、音声AIがつまずいた夏に、止めるのでも押し切るのでもなく、「この店のこの時間はAIで」と使いどころを決め直しました。その翌年、音声AIは890店舗超に広がっています。McDonald'sも試験を終えた2年後に、自前の音声AIで戻ってきました。3社とも、問い続けてきたのは「AIを使うか」ではなく「どこで、いつ使うか」だったのだと思います。

あなたのセンターで、ボットに任せない時間帯はどこですか。

よくある質問

Q1. McDonald'sはドライブスルーの音声AIから撤退したのですか

いいえ。2024年に終えたのはIBMとの自動注文受付の試験です。同社はその時点で音声注文は将来の一部になると述べ、2026年9月には自社のAI基盤の一部として音声AI「Archy」を紹介しています。

Q2. Taco Bellの890店舗超は、どの技術の数字ですか

Omiliaの音声AIが動いている米国内の店舗数で、2026年7月の発表時点で38州890店舗超です。親会社Yum! Brandsがほかの技術提携で示した計画値とは別の数字です。

Q3. 18,000杯の水の注文は、実際に店に通ったのですか

客が注文しようとして音声AIの受付が止まり、従業員が代わりに応対したと報じられています。水が用意されたという報道は確認できていません。

Q4. Wendy'sの500店舗超は実績ですか

2025年5月に示した年内の計画値です。同月時点の実績は160店舗超です。

参考リンク・注記

一次情報(企業公式・企業発表。確認日はいずれも2026年10月28日)

報道・ベンダー・提供者側(確認日はいずれも2026年10月28日)

注記

  • 本稿は公開情報をもとにした CC AI Lab 編集部の見立てで、Taco Bell、Yum! Brands、McDonald's、Wendy'sの見解ではありません。
  • 発言は各掲載ページの英文を編集部が日本語に訳したものです。役職は掲載時点のものです。Taco Bellの技術責任者の発言は、Wall Street Journalの取材をTechCrunchとNation's Restaurant Newsが伝えたものです。
  • 「2年でおよそ9倍」は、100店舗超と890店舗超という公表値から編集部が置いた目安です。
  • 特定ベンダーの評価・推奨は行いません。

この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

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この記事について相原さんに聞く数字の読み方や、他の事例との違いを、Labの記事を根拠にお答えします。
この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

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