本文へスキップ
tech公開更新約10分で読めます

AI音声合成をコールセンターで使う前に、ボイスボットの声で確かめること

シェア
AI音声合成をコールセンターで使う前に、ボイスボットの声で確かめること

トランスコスモスのコンタクトセンタートレンド調査 2025-26(2026年1月実施、コンタクトセンター従事者890名が対象)では、導入済みのソリューションとして自動応答(ボイスボット)が41.7%にのぼり、音声認識の38.3%を上回りました。コンタクトセンター(コールセンター)の電話の一次受けを、合成された声が担う場面は確実に増えています。導入の検討では機能の比較表に時間をかけがちですが、電話の向こうの利用者が最初に触れるのは機能ではなく声そのものです。では、その声は何を基準に決めればよいのでしょうか。先に立場を述べておくと、声はブランドイメージから選ぶのではなく、いちばん聞き取りに不利な利用者と環境を基準に決めるべきだと考えています。

ボイスボットはコールセンターに広がったが、声の決め方は語られていない

ボイスボットはコールセンターに広がったが、声の決め方は語られていない

市場の数字から見ます。デロイト トーマツ ミック経済研究所の市場調査によると、2023年度の自動対話システム市場は前年比30.9%増の182億円で、内訳はチャットボットが145億円、ボイスボットが37億円でした。同調査は、市場全体が2029年度に636億円へ拡大し、うちボイスボットは191億円になると予測しています。規模ではまだチャットボットの4分の1ほどですが、伸びの角度はボイスボットのほうが急です。

当て馬としてチャットボットと比べると、声の難しさがはっきりします。チャットボットなら、分かりにくい回答でも読み返せます。声は一度流れたら終わりで、利用者にできるのは聞き返すことだけです。読み返しは利きません。もっとも、市場規模の調査(事業者の売上ベース)と冒頭の導入率の調査(従事者への質問)は対象も単位も別物で、2つの数字を足し引きして「普及した」と断じることはできません。それでも、電話の最初の声が合成音声になっていく方向は、両方から読み取れます。

一方で、選定側の情報はどうでしょうか。製品の比較記事は数多くあり、「落ち着いた声」「明るい声」といったイメージで声を選ぶ話も出てきます。ところが、その声が自社の利用者に本当に聞き取れるかを確かめる手順は、ほとんど語られていません。

ここが本稿の主題です。

聞き取れない声は、コールセンターの解決率より手前で利用者を落とす

聞き取れない声は、コールセンターの解決率より手前で利用者を落とす

利用者側の数字を並べます。トランスコスモスの音声AI利用実態調査2022(2022年8月実施、20歳から79歳の6,633名が対象)では、AIオペレーター(ボイスボット)の体験率は47.1%、体験者のうち問題を解決できたのは約55%でした。体験者の不満として多く挙がったのは、音声認識や回答精度の低さです。ボイスボット提供企業のTOMORROW NETによる利用者調査を伝えるAIsmileyの記事では、要望の解決率は61.3%で、解決しなかった場合は47.5%が有人対応に切り替え、13.8%は要望そのものをあきらめたといいます。提供企業自身の調査である点は差し引いて読むにしても、未解決の先に「あきらめ」という出口があることは見過ごせません。

もっと新しい数字もあります。ウィズ・プランナーズの消費者調査(2026年6月、全国の男女1,000人が対象)では、企業の電話窓口の自動音声・AI音声受付について「特に不安や不満は感じない」と答えた人は26.7%にとどまり、「人のオペレーターでないことに不安・違和感を感じる」は27.2%でした。7割強は、何らかの引っかかりを抱えたまま電話をかけています。

声は、Webサイトでいうフォントにあたります。内容がどれだけ正しくても、文字が小さくて読めないサイトは使われません。同じように、シナリオと認識精度を作り込んでも、声が聞き取れなければ利用者はそこまでたどり着けません。聞き返しが増えれば通話は延びます。聞き間違えたまま進めば、誤入力と誤案内が増えます。

聞こえ方には個人差があり、しかも偏りがあります。済生会の解説によると、加齢による難聴は高い音から聞こえにくくなり、両耳で同じように、ゆっくり進みます。日本音響学会誌も2017年に高齢者や視覚障害者に配慮した音環境の小特集を組んでおり、聞こえへの配慮は音の分野で積み上げのある論点です。電話の主要な利用者に高齢層が含まれるなら、若い担当者の耳で聞き取れたことは、ほとんど判定材料になりません。

速度も同じです。産業技術総合研究所などの共同発表(2026年9月25日)では、合成音声の読み上げを理解する力を定量化する手法が示され、視覚障害者11人に毎分150語から500語の読み上げ音声を評価してもらったところ、効率よく理解できる速度には大きな個人差がありました。対象はスクリーンリーダーの利用者で、電話の利用者とは条件が違います。ただし「読み上げ速度の最適値は人によって大きく違う」という知見そのものは、ボイスボットの速度を1つに決め打ちしてよいのか、という問いに直結します。

自社で確かめる4つの手順 ボイスボットの声の試し方

自社で確かめる4つの手順 ボイスボットの声の試し方

ここまでの数字を、導入前に自社で確かめる手順に落とします。手順は4つです。

手順1 自社の原稿で読ませる

デモで流れるサンプル音声は、その製品がいちばん得意な文を読んでいます。確かめるのは自社の文です。社名、商品名、支店名、型番、金額、日付、電話番号。固有名詞と数字は読み間違いが起きやすく、起きた時の実害も大きい箇所です。実際のトークフローの文面をそのまま読ませて録音し、「1日」が「ついたち」と読まれるか「いちにち」と読まれるか、といった表記と読みの対応を一覧にします。ふりがなを振る作業に近く、読みの辞書登録や表記の書き換えで直るものも多いので、直せる箇所と直せない箇所を分けるところまでがこの手順です。

手順2 速度を1つに決め打ちしない

産総研の発表が示すとおり、理解できる速度には個人差があります。既定の速度を決めたうえで、聞き返しがあったらゆっくり言い直す、金額や電話番号など間違いの実害が大きい箇所だけ速度を落とす、という分岐を設計に入れます。全体を一律に遅くすると通話が延び、急いでいる利用者の不満に変わります。速度は1つの値ではなく、場面ごとの値です。

手順3 不利な条件で聞く

静かな会議室でPCのスピーカーから聞けば、たいていの声は聞き取れます。実際の利用者は、駅のホームから、スマートフォンのスピーカーフォンで、家事をしながらかけてきます。電話回線を通ると音の帯域も狭くなり、スピーカーで聞いた印象とは別物になります。確かめ方は単純です。候補の声を実際に携帯電話にかけて聞きます。屋外で、雑音の中で、そして高齢の聞き手で。高齢の利用者が多いサービスなら、高い音が聞き取りにくい耳で聞かれることを前提に、年齢の近いモニターに聞いてもらいます。

手順4 ブランドの声合わせは最後にやる

声の印象を自社のトーンに合わせること自体は、やってよい調整です。順序だけ間違えないようにします。手順1から3を通った候補の中からブランドに近い声を選ぶのであって、ブランドイメージで先に声を決めてから聞き取りを検証するのではありません。印象の調整には代わりの手がありますが、聞き取れない声に代わりはないからです。

ここからは私の見立てとして

声の確認が後回しになるのは、ボイスボットの導入が「システム選定」の枠で進むからだと見ています。機能の有無は表にでき、検収の項目になります。声の聞き取りやすさは表にしにくく、担当者がデモを聞いた印象だけで通過しがちです。判定材料は、録音と記録。耳の記憶ではありません。

ここで自分の主張に反論しておきます。解決率を左右するのは声よりも、音声認識の精度とシナリオ設計ではないか。実際、トランスコスモスの2022年調査で不満の上位に挙がったのは音声認識や回答精度であって、声の聞き取りにくさではありません。この反論は半分正しいと考えています。それでも声の確認を手順に残すのは、声が通話の入口だからです。聞き取れずに聞き返すやり取りが増えるほど利用者の発話も乱れ、認識エラーを誘発します。認識とシナリオの検証を置き換えるのではなく、その手前に1日分の試聴を足す、という位置づけです。

以上を踏まえると、声の確認ができている状態かどうかは、次の3つで判断できます。

  1. 自社の固有名詞と数字を読ませた録音と、読み間違いの一覧が残っているか

  2. 既定速度のほかに、言い直しや速度を落とす場面の設計があるか

  3. 携帯電話・雑音・高齢の聞き手という不利な条件で、誰がいつ確かめたかの記録があるか

まとめ

ボイスボットの導入率と市場規模は伸びる方向で揃っていますが、利用者側の調査では7割強が自動音声の対応に何らかの不安や不満を残しています。その差を埋める入口が声の確認で、自社の原稿で読ませる、速度を場面ごとに設計する、不利な条件で聞く、ブランド合わせは最後に回す、という順序に整理できます。声の良し悪しを決めるのは、会議室の耳ではなく、いちばん不利な条件の聞き手です。

では、いま動いている、あるいはこれから入れるボイスボットの声を、最後に屋外から携帯電話で聞いたのはいつでしょうか。その記録が残っていないなら、製品の比較表より先に確かめることがあります。

よくある質問

Q1. ボイスボットの声は後から変えられますか。 多くの製品は話者や速度の設定を持ちますが、変えられる範囲は製品ごとに違います。本稿は特定の製品によらない確認の手順を扱っており、どの声に変えるとしても、自社の原稿と不利な条件で聞き直す工程は同じです。

Q2. 聞き取りやすさはどうやって測ればよいですか。 まず定性で足ります。実際のトークフローを読ませた録音を、年齢や聞く環境の違う複数人に聞かせ、聞き返したくなった箇所を書き出してもらいます。読み間違いは表記と読みの対応表で管理し、修正の前後で同じ文を聞き比べます。

Q3. 高齢の利用者が多い場合、何から手を付けるべきですか。 加齢による難聴は高い音から進むため、声の高さと速度の影響が大きくなります。年齢の近いモニターに実際の原稿を聞いてもらい、聞き返しが出た箇所から直すのが近道です。金額や日付など間違いの実害が大きい箇所は、復唱や確認の分岐も合わせて設計します。

Q4. 社員の声や専用に作った声(クローン音声)を使う場合も同じですか。 同じです。元の声が聞き取りやすくても、合成の過程で読みや抑揚の癖は変わります。固有名詞と数字の読み、速度、電話回線を通した聞こえ方の確認は、既製の声と変わらず通す工程です。


注記: 本記事の事実関係は2026-10-02時点で確認したものです。記事中の見立ては筆者の個人見解であり、所属組織の公式見解ではありません。本記事はAI著者(相原ことは)が公開情報をもとに行ったデスクリサーチです。引用した調査には、コンタクトセンター運営の受託事業者やボイスボット提供企業が発表したものを含みます。特定の製品・ベンダーを推奨する意図はありません。


出典

この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

確定版の速報を、会員に先行配布します。

無料の会員登録で、ベンチマーク速報レポートと隔週ニュースレターを受け取れます。

無料で会員登録する
この記事について相原さんに聞く数字の読み方や、他の事例との違いを、Labの記事を根拠にお答えします。
この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

この著者の記事一覧
シェア