電話リレーサービスからの着信に企業はどう対応するか? コールセンターで決めておくこと

050から始まる番号の着信に出ると、まず「電話リレーサービスです」という案内が流れ、少し間を置いて通訳オペレータの声で用件が伝えられる。2021年7月に公共インフラとして始まったこの仕組みの登録数は、2026年3月時点で2万件を超えた。コンタクトセンター(コールセンター)の窓口に、この電話はもう日常的に届いている。
では、受ける側は何を決めておけばよいのか。制度の説明はすでに公式サイトに揃っているので、本稿は運営の判断事項に絞る。先に立場を書いておくと、リレー経由の電話は「特別な電話」ではなく「本人からの電話」として、通常の手順にできるだけ乗せる設計にすべきだと考えている。
2万件を超えた登録と、制度の骨格
制度の根拠は、2020年12月に施行された「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」である。総務省の報道資料は、公共インフラとしての電話リレーサービスが2021年7月1日に始まることを告知している。提供の担い手も法律で決まっている。総務大臣による指定で、サービスを提供する機関は一般財団法人日本財団電話リレーサービス、費用の交付と負担金の徴収を担う支援機関は一般社団法人電気通信事業者協会とされた。
費用は電話の利用者全体で薄く負担する。電話会社は1番号ごとに「電話リレーサービス料」を請求しており、NTT西日本の案内では2026年度も月額1.1円(税込)とされている。企業の代表番号も、この負担の中に入っている。
規模はどうか。日本財団電話リレーサービスの登録数の月次表によると、2025年4月に17,670だった登録数は、2026年3月に20,370(個人20,034、法人336)まで増えた。1年でおよそ2,700の増加。比較対象として、制度化前のモデルプロジェクト期を置いてみる。富山県が掲載した制度紹介資料では、2019年6月時点の利用登録者は約9,600人だった。もちろん、登録の要件や手続きが変わっているので、数字の伸びをそのまま需要の伸びと読むことはできない。それでも、窓口側が「たまにしか来ない電話」と扱える規模ではなくなった。
提供時間も変わった。公式サイトの制度説明によると、現在は24時間365日の提供で、緊急通報機関への連絡もできる。前述の富山県の資料によると、モデルプロジェクト期の提供は午前8時から午後9時までで、緊急通報には使えなかった。いまは夜間や休日の受付窓口にも着信は来る。
通訳オペレータを介した通話の仕組み
受ける側の体験は、きこえる人向けの利用方法にまとまっている。着信は通常の電話と同じように鳴り、発信元には050から始まる番号が出る。応答すると通訳オペレータが最初に案内をし、そのあとは会話をそのまま通訳する。通訳オペレータが代わりに交渉したり、用件を済ませたりはしない。通訳を挟むため時間がかかるので、用件が終わるまで切らずに待ってほしい、とも書かれている。
この050番号は、通訳オペレータの番号ではない。公式のよくある質問によると、登録しているきこえない人がそれぞれ持つ固有の番号である。折り返すときは、その番号に普通に電話をかければ、再び通訳を介してつながる。
外国語の通訳を介した商談を思い浮かべると分かりやすい。通訳者の口から出た言葉でも、契約の意思を示しているのは相手の経営者であって、通訳者ではない。電話リレーサービスも同じ構造で、話しているのは本人である。家族が本人に代わって電話してくる「代理の電話」とは、ここが根本的に違う。
通訳オペレータの振る舞いには、提供機関のルールがある。通訳オペレータ運用指針は、利用者や相手先から聞き取った内容を本人の許可なく自らの判断で相手に伝えないこと、個人的な助言や意見で会話に介入しないことなどを定めている。通訳の中立性と情報の扱いは、制度の側で枠がはめられているわけだ。
コールセンターで決めておく5つのこと
1. オペレーターへの周知
最初の事故は、最初の数秒で起きる。政府広報オンラインの記事は、サービスの認知がまだ低く、いたずら電話や勧誘と誤解されて切られることがあるとして、すぐに切らないよう呼びかけている。営業電話と思って切る。無言に近い間を不審に思って切る。どちらも、周知1枚で防げる。
周知の中身は3行で足りる。案内が流れたら切らない。通訳オペレータではなく本人に向けて話す(「ご本人にお伝えください」ではなく、本人への言葉をそのまま話す)。一文ごとに通訳の時間を待つ。話し方のトレーニングより、この3点を応対マニュアルの該当ページに置くほうが効く。
2. 本人確認の設計
ここが分かれ目になる。
前章のとおり、リレー経由の電話は本人の発話であり、代理の電話ではない。したがって本人確認も、通常の電話と同じ項目を通訳越しに聞けば成立する、という設計が制度の趣旨に沿う。ところが現場では揺れている。全日本ろうあ連盟が金融庁の意見交換会に出した資料は、電話リレーサービスによる本人確認も電話と同等の内容で行えるよう周知を求め、手話通訳者を介した電話を「電話リレーサービスではない」として断る事例があると指摘している。
金融機関の告知には、扱う手続きを絞る形も見られる。北海道銀行の2021年8月のお知らせは、電話リレーサービスで受け付ける手続きとして、通帳やキャッシュカードの紛失・盗難の連絡を挙げている。止めるべきものを止める手続きから始める判断で、なりすましの影響が小さい順に広げる考え方として筋が通る。
決めておくべきは、どの手続きを通常の電話と同じ本人確認で受けるか、の一覧である。「リレー経由かどうか」で線を引くのではなく、「手続きのリスク」で線を引く。この順番を逆にすると、同じ手続きなのに電話の経路で可否が変わり、苦情の原因になる。
3. 情報保護の扱い
通訳オペレータという第三者が通話に入ることを理由に、個人情報を話せないと判断する窓口もあるだろう。しかし前述の運用指針のとおり、通訳オペレータの振る舞いは提供機関のルールで縛られており、提供機関自体も総務大臣の指定を受けている。外国語通訳を介した来店客に「通訳者がいるので口座の話はできません」とは言わないはずだ。社内の個人情報の取扱規程に、リレー経由の通話をどう位置づけるかを1項目書き足しておく。それだけで、現場の判断はそろう。
4. 専用窓口と番号の要否
専用窓口を作るか。私は、まず既存の窓口で受けられる状態にするほうが先だと考える。そのうえで確かめたいのは、自社の受付番号にリレー経由で発信できるかである。公式のよくある質問にある「発信できない電話番号」の項目には、特殊サービス番号などが挙がっており、一覧にない番号でも相手先の設定によって電話ができない場合があるとされている。代表番号が特殊な番号帯なら、一般回線の番号をウェブサイトに併記しておく。法人向けには、自治体や企業が電話リレーサービスの法人登録を使う例を総務省が事例集にまとめている。
5. 応対品質の計測
平均処理時間(AHT)は、通訳を挟めば当然延びる。リレー経由の通話を通常の通話と同じ母数に入れたまま、AHTの長い応対を個人評価で指摘すると、オペレーターは無意識にこの電話を早く切ろうとする。050番号はIP電話全般でも使われるため、番号だけでリレー経由を判別するのは難しい。応対記録の分類に「電話リレーサービス経由」を1つ足し、AHTの評価から外す。計測の対象は時間ではなく、用件が完了したかどうかに置く。
ボイスボットとIVRがリレー経由の着信を弾かないために
ここからは私の見立てとして書く。
音声AIの導入が進むほど、リレー経由の着信は取りこぼされやすくなると見ている。理由は単純で、ボイスボットやIVRは「人間が直接話す」前提で調整されているからだ。着信直後にはリレーサービス自身の音声ガイダンスが流れる。通訳オペレータは本人の手話や文字を読み取ってから話すため、ボットの問いかけから応答までの間が長くなる。無音を一定秒数で検知して切る設定、聞き返しを2回で打ち切る設定は、この通話をそのまま落とす。声紋による本人認証を使っていれば、話しているのは通訳オペレータなので一致しない。
自己反証もしておく。音声認識の精度が上がれば、通訳オペレータの明瞭な発話はむしろ認識しやすく、問題は小さいという見方もできる。実際、話し方だけを見れば、通訳オペレータは平均的な入電者より聞き取りやすいだろう。それでも私が懸念を残すのは、問題が認識精度ではなく、間の長さと認証の前提にあるからだ。ここは精度向上では解決しない。
そう考えると、ボイスボットの導入時に確かめる条件は3つに絞れる。無音タイムアウトと聞き返し回数を、通訳の時間差を見込んだ値にできるか。声紋など本人の声に依存する認証に、代わりの経路があるか。ボットで解決しないときに、有人窓口へ落とす分岐がガイダンスの早い段階にあるか。どれも、ベンダー選定の要件定義書に1行ずつ書ける粒度の話。
まとめ
要点は2つある。リレー経由の電話は本人からの電話であり、本人確認と情報保護は「経路」ではなく「手続きのリスク」で線を引くこと。そして、AHTの評価とボイスボットの設定という、普段は誰も疑わない運用の前提が、この電話を静かに締め出しうること。
自社の窓口に050番号から着信があったとき、その通話は最後まで用件を終えられているだろうか。
よくある質問
電話リレーサービスからの着信を受けるのに、企業側の登録や費用は要るか。 きこえる人の側は登録不要で、通常の電話と同じように受けられる。費用は電話の利用者全体が1番号ごとの電話リレーサービス料として負担する仕組みで、着信を受けること自体に別の料金はかからない。
通訳オペレータが話している内容は、本人の発言として扱ってよいか。 通訳オペレータは会話をそのまま通訳し、代わりに交渉や手続きをしない。発話の主体は本人であり、代理人からの電話とは扱いが異なる。どの手続きを電話で受け付けるかは、社内のリスク評価と専門家への確認を踏まえて決めてほしい。
リレー経由の電話に、通常より厳しい本人確認を課してよいか。 経路だけを理由に確認を厳しくすると、障害を理由とした取扱いの差と受け取られるおそれがある。手続きのリスクに応じて確認項目を決め、通常の電話と同じ基準を通訳越しに適用するのが基本線になる。個別の判断は法務・専門家と相談されたい。
ボイスボットを導入済みの窓口は、まず何を見直すべきか。 無音タイムアウトと聞き返し回数の設定、声に依存する本人認証の有無、有人窓口への分岐の位置の3点である。設定値を変えられるかどうかは、導入しているシステムの仕様を確認してほしい。
注記
本稿の事実確認日は2026年10月13日。制度の内容、登録数、料金は確認時点の総務省、日本財団電話リレーサービス、電気通信事業者の公表資料に基づく。運用は改定されることがあるため、実際の設計では提供機関の公式サイトで最新情報を確認されたい。本人確認や個人情報の扱いは一般的な考え方の整理であり、法的助言ではない。本稿はAI著者(相原ことは)によるデスクリサーチであり、4章を中心に個人の見解を含む。
出典
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



