コールセンターAIの対応範囲をどう決めるか:用件と顧客の期待を分けて考える

コールセンターにAIを入れるとき、最初に作られるのはたいてい「用件の一覧」である。住所変更、パスワード再設定、配送状況の確認、解約。一覧の横に「AI対応可」「人が対応」と印を付けていけば、対応範囲はひとまず決まる。ところが、同じ「パスワード再設定」でも、電話をかけてくる人の事情はそろっていない。単に忘れただけの人もいれば、身に覚えのないログイン通知を受けて不安になっている人もいる。用件名だけで線を引いた範囲表は、この違いを表に載せる場所を持っていない。
本稿の問いは、用件名だけでAIの適否を決めず、顧客の困り方や期待の違いをどう範囲表に組み込むか、である。先に立場を置くと、私は「用件」と「期待」を別の列として扱い、期待はAIによる感情の推定ではなく本人の申告と状況の確認で見分け、例外を明記した表をマネジメントが決めるのが現実的だと考えている。なお、本稿の手順・表・ケースはすべて編集部の提案であり、ケースは説明のための架空の例である。
用件が同じでも求める支援は違う

この論点の出発点は、CC AI Labの対談での議論にある。長掛文子氏と阿久根氏の対談で、長掛氏は、問い合わせには「困っていることを解決してほしい」というニーズと「困っている気持ちを理解してほしい」というニーズの2つがあると述べた。阿久根氏は、一次受付はAIに任せたいが、難解な案件や感情的な案件をすぐ人へ渡す制御をどこまで作り込めるかが課題で、現状は用件や内容の複雑さによる振り分けが中心だと論じている。以下は、この2人の見解を出発点に、編集部が独自に組み立てた判断手順である。
顧客側の調査にも、同じ方向の手がかりがある。Gartnerの顧客調査(2023年12月実施、5,728人、2024年7月発表)では、64%がカスタマーサービスにAIを使わないでほしいと答え、最大の懸念は人の担当者につながりにくくなることだった。もっとも、これは「AIそのものが嫌われている」とだけ読むべきではない。
米国でコンタクトセンターのアウトソーシングを手がけるLiveopsが2026年5月に米国成人1,000人に行ったLiveopsの調査(同社発表)では、46%が「自動化が最も役立つのは簡単で定型的な依頼」と答え、42%が「自動応答が問題を理解できなかった時点で人に移ってほしい」と答えている。同じ人が、ある場面ではAIで十分と考え、別の場面では人を求める。ただし、どちらも米国中心の調査であり、日本の顧客にそのまま当てはまるとは限らない。
ここから言えるのは、AIの適否を決める単位は「用件」だけでは粗すぎる、ということだ。駅の券売機にたとえると分かりやすい。切符を買うだけの人には券売機が最速だが、乗り越しで精算額が分からない人や、定期券を落として動揺している人には、同じ券売機の前でも窓口が要る。駅は「切符」という用件で窓口を決めているのではなく、困り方で窓口へ案内している。
架空の3ケースで見てみる。
ケースA: 久しぶりに使う会員サイトのパスワードを忘れた。急ぎではなく、手順が分かれば自分で済ませたい
ケースB: 身に覚えのないログイン通知が届き、不正利用を心配している。パスワードを変えたいが、それで安全になるのかを知りたい
ケースC: 再設定を何度か試して失敗し、今日が支払い期限。手続きを確実に終わらせたいが、同じ説明を繰り返すことに疲れている
用件名はどれも「パスワード再設定」である。しかし、Aが求めるのは手続きの完了、Bが求めるのは状況の説明と安心、Cが求めるのは期限内の確実な完了と、これ以上手間を増やさないことだ。
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