CTI比較はAI連携の4つの軸で コールセンターが選定前に確かめること

Salesforceは、CRMと電話をつなぐ仕組みとして長く使われてきたOpen CTIについて、Open CTIの開発者ガイドで、新機能の追加を止めた保守モードにあり、2028年2月28日に提供を終了する予定だと明記している。移行先として勧めているのは自社の音声製品である。電話とCRMの「つなぎ方」そのものが、数年単位で入れ替わる対象になったということだ。「CTI 比較」で検索する情報システム担当者が目にするのは、多くの場合、機能と月額料金を並べた製品一覧である。ここで考えたい問いは、AI活用を前提にしたとき、その一覧で本当に比較すべき項目は何か、である。私の立場を先に言えば、画面に何が出るかより、通話の音声とデータを外へ出せるかどうかを先に比べるべきだ、というものだ。
CTIの役割が変わったコールセンターの異変

まず定義を確認する。NTT東日本の用語辞典は、CTI(Computer Telephony Integration)をコンピューターと電話を統合したシステムと説明し、PBX(構内電話交換機)やCRM(顧客管理システム)と連携させることで、着信した顧客の情報や過去の問い合わせ内容を画面に表示できると整理している。電話が鳴った瞬間に顧客カードが開く、いわゆるポップアップがCTIの原型だ。
この原型を比較の基準に置くと、変化の大きさが分かる。従来のCTIの価値は、電話とパソコンの間で「誰からの電話か」という情報を受け渡すことにあった。受け渡すのは電話番号や通話の開始・終了といったイベントで、通話音声そのものは交換機と録音装置の中に閉じていてよかった。一方、生成AIを使った通話の要約、リアルタイムの応対支援、ボイスボットは、どれも音声そのものを材料にする。AIの時代に問われるのは、イベントの受け渡しではなく音声の受け渡しである。
規模の面でも圧力は大きい。Gartnerは2022年の時点で、会話型AIによる人件費削減の予測として、2026年にはコンタクトセンターでの会話型AIの導入によってエージェントの人件費が世界で800億ドル削減されるとの見通しを示した。もっとも、これは4年前の予測であり、実際にその水準に届いたかを検証した数字ではない。単純に「AIを入れれば削減できる」と読むのではなく、市場がAIを前提にコールセンターの基盤を見直す方向へ動いたことを示す材料として受け取るのが妥当だ。国内でも、矢野経済研究所のコールセンター市場総覧がクラウド型コンタクトセンターソリューションを独立した調査項目として扱っており、基盤のクラウド化が一つの市場として定着していることがうかがえる。
なぜ音声の出口が比較の要になるのか

メカニズムを噛み砕く。AIを通話に使うには、話されている音声をほぼ遅延なくAIの側へ流し、結果を画面や通話に返す必要がある。アナロジーで言えば、従来のCTIは「来客の名札を受付から担当者へ渡す仕組み」で、AI連携に必要なのは「会話そのものを同時通訳者の耳に届ける配線」である。名札の受け渡しがどれだけ速くても、配線がなければ通訳者は仕事ができない。
クラウド型の基盤では、この配線が公開された仕様として用意され始めている。Amazon Connectは顧客音声のライブストリーミング設定として、通話音声をAmazon Kinesis Video Streamsへ送り出す機能を説明しており、通話全体か、顧客が聞く側・顧客が話す側のどちらか一方向かを選べる。同社は2019年11月のCustomer Voice Streamの機能追加の告知で、顧客が話す音声に加えて、顧客が聞く側の音声(エージェントの声や自動音声など)もリアルタイムで送り出せるようになったと発表している。
仕様の細部も公開されている。ライブメディアストリーミングの計画ガイドでは、音声のサンプリングレートが8kHzであること、通話1本ごとにストリームを1本使うことが示されている。
Twilioも同様に、Media Streamsの概要で、通話の生の音声をWebSocketで指定先へ流し、リアルタイムの文字起こしや感情分析に使えると説明する。TwiMLのStream命令の仕様では、音声を一方向に流す方式と、相手側から音声を通話へ戻せる双方向の方式が区別されている。
オンプレミスの交換機でも道がないわけではない。IETFは2016年5月にセッション録音プロトコルRFC 7866を標準として公開しており、通話の経路上にある録音クライアントから録音サーバーへ、リアルタイムの音声とメタデータを届ける方式を定めている。SIPRECと呼ばれるこの方式に既存の交換機や録音装置が対応しているかどうかは、オンプレミスのまま外部AIとつなぐ場合の分かれ目になる。
コールセンターのCTI選定で見る4つの比較軸

ここから、個別製品の優劣には踏み込まず、AI活用を見据えたCTI選定で比べるべき軸を型として抜き出す。どの製品が良いかではなく、どの質問を製品に投げるかの整理である。
軸1 音声をリアルタイムで外へ出せるか
最初に確かめるのは、通話中の音声を外部のAIへ流す公式な手段があるかどうかだ。Amazon ConnectやTwilioの例のように、ストリーミングの仕様が公開されていれば、後から文字起こしや応対支援のAIを差し替えられる。あわせて、話者ごとに音声を分けて取れるか、音声形式やサンプリングレートは何かも確認する。つなぎたい音声認識やAIがその形式の電話音声を入力として受け付けるかどうかは、接続の前提条件になるからだ。
軸2 AIが通話に話し返せるか
次に、音声を取り出すだけの一方向か、AIの出力を通話に戻せる双方向かを確かめる。Twilioの仕様が一方向と双方向を分けているように、この違いは要約や応対支援で止まるか、ボイスボットによる自動応対まで進めるかを決める。今は応対支援だけを考えていても、数年後に一次受付をAIへ任せる可能性があるなら、双方向の経路があるかどうかは選定時に聞いておくべき項目である。
軸3 通話イベントと分析結果を取り出せるか
三つ目は、音声以外のデータの出口である。通話の開始・転送・終了といったイベントや、文字起こし・感情分析などの結果を、自社のシステムへ取り出せるかどうかだ。Amazon ConnectはContact Lensの分析セグメントストリームとして、音声とチャットの分析結果をAmazon Kinesis Data Streamsで受け取れる仕組みを示している。TwilioのStreams APIのリファレンスは、通話中にストリームを開始・停止する操作をAPIとして定めている。管理画面で見られることと、APIで取り出せることは別物であり、比較表では後者を確かめたい。
軸4 CRMとのつなぎ方に寿命があるか
四つ目は、CRM連携の方式とその寿命である。冒頭のOpen CTIのように、広く使われてきた連携方式でも提供終了の予定が公表されることがある。CTI側が「CRM連携あり」と書いていても、それがどの方式によるもので、その方式がいつまで提供されるのかは別の問いになる。選定時には、連携方式の名前と、CRM側・CTI側双方のロードマップ上の位置づけを確認しておくと、数年後の作り直しを避けやすい。
示唆 比較表の行を入れ替える
ここからは私の見立てとして述べる。国内のCTI比較は、機能数と料金の横並びに寄りすぎている。着信ポップアップ、通話録音、IVR、モニタリングといった機能は、多くの製品で既に標準装備に近く、差がつきにくい。差がつくのは、上の4つの軸のように「データと音声を外へ出す口」の設計である。AI関連の機能は製品ごとに更新が速く、今日の搭載機能で比べても半年後には入れ替わる。一方、出口の設計は基盤の構造に根ざしており、後から変えにくい。比較表の行を、機能の有無から出口の有無へ入れ替えることが、AI時代のCTI選定の第一歩だと考える。
自己反証もしておく。すべてのコールセンターが外部AIとの柔軟な接続を必要とするわけではない。CTIやCCaaSの製品に最初から組み込まれたAI機能で十分な現場も多いはずだ。席数が少なく、情報システム部門が小さい組織にとって、音声ストリームやAPIを使いこなすことは負担が大きく、出口の設計よりも「組み込みAIの出来」で選ぶほうが合理的な場合もある。つまり、出口を重視する見方は、ある程度の規模と内製力がある組織に偏った主張かもしれない。
それでも、出口を確かめておく価値は残ると考える。組み込みAIで始めた組織も、後から別のAIへ乗り換えたくなったとき、出口がなければ基盤ごと入れ替えるしかない。出口の確認は、今使うための条件ではなく、将来の選択肢を残すための保険として位置づけられる。
私の見立てでは、AI連携を軸にしたCTI選定が機能するのは、次の3条件がそろったときだ。第一に、3年程度の間にAIで何をしたいか(要約か、応対支援か、自動応対か)を選定前に言葉にしていること。第二に、比較表に音声とデータの出口に関する質問を入れ、ベンダーから文書で回答を得ていること。第三に、CRM連携の方式とその提供期限を、CRM側の計画と突き合わせていること。
まとめ
第一に、CTIの原型は着信時に顧客情報を画面へ出す仕組みであり、受け渡してきたのは主に通話のイベントだった。第二に、AIの活用は通話音声そのものを材料にするため、音声とデータを外へ出せるかどうかが比較の要になる。第三に、選定で見る軸は、音声の出口、双方向性、イベントと分析結果の出口、CRM連携の寿命の4つに整理できる。
自社のCTIの比較表を開いたとき、その中に「通話音声を外へ出せるか」という行は、いま入っているだろうか。
注記
本記事の事実関係は2026年9月28日時点で確認した公開情報にもとづく。製品名は公開仕様の例として挙げたもので、特定製品の優劣や推奨を示すものではない。記事中の見立ては筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解ではない。
出典
Salesforce Developers「Get Started with Open CTI | Open CTI Developer Guide」
AWS「Set up live media streaming of customer audio in Amazon Connect」
AWS「Amazon Connect Now Supports Inbound and Outbound Audio with Customer Voice Stream」
AWS「Access Contact Lens analytics for voice and chat contacts using Amazon Kinesis Data Streams」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



