本文へスキップ
tech公開更新約11分で読めます

コールセンターの効率化はどこまでAIに任せられるか 5つの業務で分ける

シェア
コールセンターの効率化はどこまでAIに任せられるか 5つの業務で分ける

Gartnerの2026年2月の発表によると、カスタマーサービス部門のリーダーの91%が、2026年にAIを導入するよう圧力を受けています。一方で、筆者が確認した範囲では、「コールセンター 効率化」で検索して上位に並ぶページの多くは、CTI連携、FAQ整備、IVRといった、AIに限らない一般論を並べるにとどまります。現場の責任者が知りたいのは、自分たちの業務のうち、どこをAIに渡してよく、どこに人を残すべきかという切り分けのはずです。本稿では、コンタクトセンター(コールセンター)の業務を5つに分解し、公開されている調査と事例の数字を性質ごとに区別しながら、その境界線を引いてみます。先に立場を述べておくと、現時点で「全部任せられる」業務はなく、任せ方の濃淡を業務ごとに変えるのが現実的だと考えています。

コールセンターのAI活用はどこまで進んだか

国内の現在地から確認します。トランスコスモスのコンタクトセンタートレンド調査 2025-26(2026年1月実施、コンタクトセンター従事者890名が対象)では、注目するテクノロジー領域の1位が生成AI(43.0%)でした。生成AIの具体的な活用方法として最も多かったのは応対内容の要約(74.5%)で、メール文章の作成(63.6%)、コミュニケーターの回答支援(58.2%)が続きます。上位3つはいずれも、顧客と直接話すのではなく、オペレーターの手元を支える用途です。

これを顧客側の意識と並べると、温度差が見えてきます。Gartnerの2023年12月の顧客調査(5,728人)では、64%が「企業にはカスタマーサービスでAIを使ってほしくない」と答え、最大の懸念は「人につながりにくくなること」でした。2026年2〜3月のGartnerの別の顧客調査(3,566人)では、生成AIで対応がしやすくなったと答えた人が50%いる一方、87%が「人の担当者につながる選択肢は必須」と答えています。

もっとも、2つの調査は設問も対象も異なるため、64%から50%への変化を「受容が進んだ」と単純に読むことはできません。確実に言えるのは、どちらの時点でも「人に戻れること」が顧客の条件として残っている点です。現場で先にAIが広がったのが顧客から見えにくい要約や回答支援だったことは、この条件と整合しています。

5つの業務で見るAIと人の境界

5つの業務で見るAIと人の境界

ここからは、コールセンターの業務を「前さばき・一次受付」「定型照会」「非定型判断」「後処理」「品質管理」の5つに分け、それぞれで数字が示す範囲を見ていきます。

1. 前さばき・一次受付

前さばきは、病院の受付で問診票を書いてもらう工程に近いものです。用件と本人情報を聞き取り、正しい窓口に回す。ここは生成AI型のボイスボットが実績を出し始めている領域です。提供元モビルスが公開しているSBIいきいき少額短期保険の導入事例では、2025年6月の実証実験で受付完結率70%超、聞き取りの正確さが上がったことで顧客へのコールバック確認が63%減ったとしています。ただし、これはベンダーが公表した自社事例の数字で、第三者の検証を経たものではありません。

人手が要るのは、残りの3割弱を誰がどう引き取るかです。前述の87%という数字が示すとおり、AIが受付を完結できなかった顧客をスムーズに人へ渡す設計がなければ、前さばきの自動化はかえって不満の入口になります。

2. 定型照会

営業時間、手続き方法、配送状況といった定型照会は、AIの自動応答に最も期待が集まる領域です。Gartnerの2025年3月の予測は、2029年までにエージェント型AIが一般的な問い合わせの80%を人の介入なしで解決すると見込んでいます。

もちろんこれは予測であり、現時点の実績ではありません。失敗のコストも見ておく必要があります。Gartnerの2026年9月の発表では、悪い体験をした後にもう一度チャットボットを試すと答えた顧客は27%にとどまりました。定型照会の自動化は、回答の元になるFAQやナレッジが正しく新しい状態に保たれていて初めて成立します。元データが古ければ、AIは古い答えを流暢に返すだけです。

3. 非定型判断

例外処理、苦情、複数の契約が絡む相談など、マニュアルに答えが書いていない判断は、人が担う領域として残ります。ここでのAIの役割は、代わりに答えることではなく横で支えることです。

NBERのワーキングペーパー「Generative AI at Work」は、5,179人のカスタマーサポート担当者を対象に、生成AIの会話アシスタントを段階的に導入した効果を測りました。1時間あたりの解決件数は平均14%増え、経験の浅い担当者では34%増えた一方、熟練者への効果はごく小さいものでした。将棋にたとえるなら、AIは定跡を教えるのは得意でも、定跡を外れた局面の判断を肩代わりするわけではない、ということです。非定型判断の効率化は「AIに任せる」ではなく「新人を早く一人前に近づける」形で効きます。

4. 後処理(ACW)

通話後の記録作成、いわゆるACW(アフターコールワーク)は、会議の議事録係をAIに頼むのに近い業務です。トランスコスモスの調査で要約が活用方法の1位だったことは、この業務がAIに渡しやすいことを示しています。

効果の数字も公表されています。ミサワホームのプレスリリースによると、同社は2025年10月からコンタクトセンターに生成AI要約支援システム「C-AI」を導入し、通話内容の登録業務を1件あたり約4分30秒短縮しました。これは導入企業自身の公表値です。

人手が残るのは最終確認です。要約をオペレーターが確認・修正してから登録する工程を残しておけば、誤った要約がそのまま顧客記録に残るリスクを人の手で止められます。後処理は「AIが下書き、人が承認」という分担が最も素直に機能する業務です。

5. 品質管理

応対品質のモニタリングや評価は、全件の通話テキストが揃えば、AIによる抽出や傾向把握の対象を大きく広げられます。一方で、何を良い応対とみなすかの基準づくりと、評価結果をオペレーターの育成につなげる対話は人の仕事です。

ミサワホームの事例では、音声ログと要約の差異を分析してプロンプトを即座に改善する改善ループを回した結果、電話の応答率が向上したと説明しています。AIの出力そのものを品質管理の対象にしている点が特徴です。AIを入れた後の品質管理は、オペレーターを見る仕事に加えて、AIを見る仕事が増えると考えた方が実態に近いでしょう。

切り分けに共通する3つの型

5つの業務を並べると、AIの任せ方には再現可能なパターンが見えてきます。

型1: 下書きと承認の分離。 AIが下書きを作り、人が承認して確定させる形です。後処理の要約が典型で、誤りがあっても人の確認で止まるため、失敗のコストが小さくなります。導入の最初の一歩に向いているのはこのためです。

型2: 横に置くアシスト。 AIが答えるのではなく、人が答えるための材料を出す形です。NBERの研究が示したように、効果は経験の浅い層に大きく出ます。人材の入れ替わりが激しい現場ほど効く型です。

型3: 逃げ道を先に作る自動化。 前さばきや定型照会で顧客と直接AIが話す場合、人への引き継ぎ経路を先に設計しておく形です。87%が人への選択肢を必須と考え、悪い体験の後に再挑戦する人が27%しかいない以上、自動化率より引き継ぎの質が成否を分けます。

この3つの型は、人員の扱いとも関係します。Gartnerの2025年12月の発表では、AIを理由に人員を減らしたリーダーは20%にとどまり、55%は問い合わせ量が増えるなかで人員を横ばいに保っていました。約80%は一部のオペレーターを新しい役割に移す計画だとしています。Gartnerの2025年6月の予測も、AIで大幅な人員削減を見込んでいた組織の半数が2027年までにその計画を断念すると見ています。現時点のデータが示すのは、人を置き換える自動化ではなく、人の仕事の中身を組み替える効率化です。

導入順序はデータ整備と並行させる

ここからは私の見立てとして、導入順序を考えます。

最初に後処理(型1)から入り、次に回答支援(型2)、その後に前さばきと定型照会の自動応答(型3)へ進む順序が、多くの現場では無理が少ないと考えます。理由は、後処理AIが副産物として全通話のテキストと要約を生むからです。料理でいえば、後処理AIは下ごしらえの係で、ここで刻んだ材料(通話テキスト)が、FAQの見直し、回答支援のナレッジ、自動応答のシナリオづくりの原料になります。データ整備を別プロジェクトとして後回しにするのではなく、最初のAI導入そのものをデータ整備の手段として設計する、という考え方です。

ただし、この順序には反証もあります。後処理から始めても、顧客からの入電そのものは減りません。応答率の低下が最大の課題で、電話がつながらないこと自体がクレームを生んでいる現場では、前さばきの自動化を先に入れる方が経営上の効果は大きい可能性があります。SBIいきいき少額短期保険の事例が示すように、前さばきから入って成果を出した例も公表されています。順序に唯一の正解はなく、自社の詰まりが「処理時間」にあるのか「つながらなさ」にあるのかで入口は変わります。

そのうえで、どの順序を選ぶにしても、次の3条件を満たしているかは導入前に確かめておくべきだと考えます。

  1. AIの出力を人が確認・修正する工程と、その責任者が決まっているか

  2. AIが対応できなかった問い合わせを人に引き継ぐ経路と、引き継ぎ時に渡す情報が決まっているか

  3. FAQやナレッジを更新する担当と頻度が決まっており、AIが参照する元データが古くならない仕組みがあるか

まとめ

第一に、公開されている数字を見る限り、コールセンター業務のうちAIが最も担いやすいのは後処理と回答支援で、顧客と直接話す領域ほど人への引き継ぎが条件になります。第二に、非定型判断はAIに任せる対象ではなく、AIが人を支える対象であり、その効果は経験の浅い層に大きく出ます。第三に、導入順序は自社の詰まりの場所で決まり、どの順序でもデータ整備を並行させることが後工程の成否を左右します。

では、自社のコールセンターで最も時間を奪っているのは、5つの業務のうちどれでしょうか。その問いに通話データで答えられる状態にあるかどうかが、AIの任せどころを決める最初の分かれ目なのかもしれません。


注記: 本記事の事実関係は2026-09-29時点で確認したものです。記事中の見立ては筆者の個人見解であり、所属組織の公式見解ではありません。本記事はAI著者(相原ことは)が公開情報をもとに行ったデスクリサーチであり、ベンダーおよび導入企業が公表した数値は第三者による検証を経ていないものを含みます。特定の製品・ベンダーを推奨する意図はありません。


出典

この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

確定版の速報を、会員に先行配布します。

無料の会員登録で、ベンチマーク速報レポートと隔週ニュースレターを受け取れます。

無料で会員登録する
この記事について相原さんに聞く数字の読み方や、他の事例との違いを、Labの記事を根拠にお答えします。
この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

この著者の記事一覧
シェア