コールセンターの申し送りの書き方 引継ぎ漏れを防ぐ4つの手順

コールセンターの申し送りで漏れを防ぐには、書く内容を「次のシフトが引き継ぐ未完了の約束」に絞り、毎回同じ型で書き、受け取る側が要点を声に出して復唱する。この3つでほぼ足ります。申し送り帳を丁寧に書くほど漏れが減る、とは考えていません。漏れが止まるのは、受け手が自分の言葉で言い直し、書き手がそれを聞いて食い違いに気づいた時点です。
引継ぎの失敗が早くから研究されてきたのは医療の現場です。米国の病院評価機関Joint Commissionは2017年9月の引継ぎに関する警告文書で、受け手に届く情報が不正確・不完全・遅い・誤解される、といった失敗が害につながると整理しました。同じ文書は、米国の卒後医学教育の評価機関の調査で、臨床研修の現場の69%に標準化された引継ぎ手順がなかったと紹介しています。人の命を扱う現場でもこの状態です。以下の4つの手順は、その知見をコールセンターのシフト交代に置き換えたものです。
手順1 申し送る対象を未完了の約束に絞る
申し送りが長くなる職場ほど、肝心の1件が埋もれます。最初にやるのは、書く対象を決めることです。
コールセンターで次のシフトに渡すべきものは、おおむね次の5種類に収まります。
- 顧客と時刻を約束した折り返し・再連絡
- 調査中・他部署回答待ちで、次のシフト中に返事が来うる案件
- 対応が続いているシステム障害・配送遅延などの事象と、その案内文言
- 注意が要る顧客(申し出の経緯があり、次に入電したら同じ担当方針で受けるべき人)
- そのシフトから効く運用の変更(料金改定、受付停止、臨時の転送先)
「今日は入電が多かった」「Aさんが休憩を早めに取った」は、次のシフトの判断を変えないので書きません。その日の所感は日報に分けます。対象を絞る基準は1つで、「次のシフトの誰かが、何かをしなければならないか」です。
障害時の申し送りだけは別扱いにしておくと楽です。障害の進行と案内文言は時間ごとに変わるので、個人の申し送り欄ではなく、障害ごとの1枚に時刻つきで追記していく形が合います。障害日の呼量の読み方は異常日の呼量予測の記事にあります。
手順2 決まった型で書く
型があると、書き手は迷わず、受け手はどこを読めばよいか分かります。医療で広く使われる型に、米国保健省の医療研究品質局(AHRQ)が研修教材で紹介しているI-PASSがあります。重症度、患者の要約、やることの一覧(期限と担当つき)、状況の把握と「もしこうなったら」の備え、受け手による要約、の5要素です。より短い型としては、米国の医療改善研究所(IHI)がSBAR(状況・背景・評価・提案)を、どんな会話にも使える覚えやすい枠組みとして公開しています。
コールセンター向けに置き換えると、1件あたり次の6欄になります。
| 欄 | 書くこと | 記入例(例示) |
|---|---|---|
| 重さ | 至急/本日中/様子見 | 本日中 |
| 誰の何 | 顧客の識別番号と用件を1文で | 会員番号末尾◯◯、請求額の二重引き落としの申し出 |
| ここまで | 済んだこと・伝えたこと | 経理へ照会済み、返金の可否は未回答と顧客に説明済み |
| やること | 誰が・いつまでに・何を | 遅番が17時までに経理の回答を確認し、18時までに顧客へ折り返す |
| もしも | 想定と対応 | 経理の回答が18時に間に合わない場合も、18時に途中経過を連絡する |
| 受け手確認 | 復唱した人と時刻 | 遅番SV、14:05復唱済み |
※記入例は説明用の架空の内容です。
いちばん書き漏れやすいのは「もしも」の欄です。予定どおりに進む場合の段取りは誰でも書けますが、回答が来ない、顧客が先に電話してくる、といった外れたときの動きを書いておかないと、次のシフトはそこで止まります。もう1つの勘どころは「やること」の主語。「確認お願いします」では誰も動きません。担当者名かシフト名を必ず入れます。
手順3 書面だけで渡さず、受け手が復唱する
ここが本稿の主張の中心です。
Joint Commissionの同じ警告文書は、電子や紙だけで引継ぎを済ませることを避け、対面が無理なら電話やビデオで、質問の時間を十分に取るよう勧めています。引継ぎの場所と時刻を固定し、割り込みの入らない場所で行うことも挙げています。I-PASSの5番目の要素は、受け手が聞いたことを要約し、質問し、やることを言い直すことです。
この型を中心に、引継ぎの研修や指導医による観察を組み合わせた改善プログラムを、9つの小児病院の研修医の引継ぎに導入した研究が、2014年にNew England Journal of Medicineに掲載されています。論文によると、1万740件の入院を対象に、医療上の誤りの発生率が導入前後で23%下がり、防ぎうる有害事象は30%下がりました。同じ論文では、口頭の引継ぎにかかる時間は患者1人あたり2.4分と2.5分で、有意な差はありませんでした。この数字は研修まで含めたプログラム全体の結果で、復唱だけの効果を測ったものではありません。患者の安全を測った病院の研究なので、コールセンターの漏れがどれだけ減るかの目安にもなりません。持ち帰れるのは、型をそろえて受け手の要約まで入れても、口頭の引継ぎの時間は延びなかったという点です。
コールセンターでの形は簡単です。シフト交代の5分前に、出るSVと入るSVが申し送り表の前に立ち、受け手が1件ずつ「誰の何を、いつまでに、どうする」を自分の言葉で言います。書き手は聞くだけ。言い直しの中で期限や担当が食い違えば、その場で直します。最後に受け手が「受け手確認」の欄に名前と時刻を入れる。この欄が埋まっていない案件は、まだ渡っていない案件です。
在宅勤務やシフトの重なりがない体制では、チャットツールで申し送り表を共有したうえで、5分だけ通話をつなぎます。文字だけで渡す運用を続けるなら、少なくとも受け手が復唱を文字で返し、書き手が確認の返信をするところまでを決まりにします。
手順4 持ち越しを数えて閉じ、AI要約は下書きに使う
申し送りは書いた時点ではなく、案件が終わった時点で閉じます。翌日以降に持ち越された案件の数を、シフトごとに数えておくと、運用の傷みが早めに見えます。
持ち越しの見方の例を置きます。
持ち越し率(例)= 前シフトから受けて、自シフト内に完了しなかった件数 ÷ 前シフトから受けた件数
例えば、仮に受けた12件のうち3件が未完了なら 25%
同じ案件が3シフト以上持ち越されたら、SVからチームリーダーへ上げる
※数字と基準は説明用の例です。
週に1回、持ち越しが3シフトを超えた案件だけを見直すと、他部署の回答待ちが滞っている、権限が足りずに誰も閉じられない、といった構造の問題が見えてきます。申し送り帳の書き方より、こちらのほうが改善につながることも多いはずです。
AIの通話要約やチケット要約は、申し送りの下書きづくりに使えます。ただし、要約が何を材料にしているかは製品ごとに確かめてください。たとえばZendeskの公式解説は、チケットの要約機能を、それまでに追加された公開コメントをまとめるものと説明しています。社内メモにだけ書いた「18時に折り返す」という約束が、要約に入るとは限らないということです。要約で拾いたい項目をあらかじめ指定する考え方は、住友不動産のお客様センターの事例が参考になります。申し送りに載せるかどうかの判断と、受け手の復唱は、人の仕事として残します。
まとめ
- 書く対象は「次のシフトが何かをしなければならない案件」だけ。所感は日報へ分ける
- 型は6欄。「もしも」と「やることの主語」を空けない
- 書面だけで渡さず、受け手が復唱し、確認欄に名前と時刻を入れて初めて渡ったことにする
- 持ち越しを数え、3シフトを超えた案件から構造の問題を探す
- AI要約は下書き。要約が社内メモを材料にしているかは製品ごとに確かめる
明日のシフト交代で、受け手に「誰の何を、いつまでにどうするか」を言い直してもらったら、何件が言えるでしょうか。
よくある質問
申し送りは紙とシステムのどちらに書くべきですか。
どちらでもかまいませんが、案件の識別番号から元の対応履歴に飛べる形が便利です。媒体より、型と受け手の確認欄があるかどうかで漏れの量が変わります。
シフト交代の時間が取れず、復唱の5分も惜しいのですが。
復唱の対象を「重さ」が至急と本日中の案件に限ると短く済みます。様子見の案件は表の共有だけにして、受け手の確認欄の記入で代えます。
申し送りに顧客の個人情報を書いてもよいですか。
識別番号など、顧客を特定するのに要る最小限にとどめ、氏名や連絡先は元の対応履歴から引くのが安全です。個人情報の扱いは自社の規程と、必要に応じて専門家に確認してください。
AIが申し送りを自動で書いてくれれば、この手順は要りませんか。
要ります。AIが要約できるのは記録に残った内容までで、何を次のシフトに渡すかの判断と、受け手が理解したかの確認は記録の外にあるからです。要約で後処理がどこまで減るかはAI通話要約と後処理の解説にまとめています。
注記
確認日: 2026年10月16日。本稿は公開情報にもとづく編集部の実務整理です。Joint Commission、AHRQ、IHIの資料と、New England Journal of Medicineの研究はいずれも医療の引継ぎを対象としたもので、数字はコールセンターでの効果を示すものではありません。本文中の表・計算式・基準の数字は説明用の例です。特定の製品を推奨するものではありません。
出典
- Joint Commission「Sentinel Event Alert Issue 58: Inadequate hand-off communication」
- AHRQ「Tool: I-PASS」
- IHI「SBAR Tool: Situation-Background-Assessment-Recommendation」
- PubMed「Changes in medical errors after implementation of a handoff program」(N Engl J Med 2014)
- Zendesk「Getting started with AI features in the Zendesk Copilot add-on」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



