コールセンターの要員計画をAI導入後に見直す4つの手順【WFM担当向け】

McKinseyの2025年の分析は、今後2〜3年でAIによる自動化が進めば、企業はオペレーターを40〜50%減らしながら、今より20〜30%多い呼を処理できるようになると見積もっている。数字だけを読めば、要員計画は「削減率を掛けて人数を減らす」作業に見える。ところが現場のWFM(ワークフォースマネジメント、需要予測とシフト作成の仕組み)担当が導入後に直面するのは、呼量は減ったのに平均処理時間(AHT)が伸び、サービスレベルが思ったほど改善しないという状況である。核の問いは、AI導入後のコンタクトセンター(コールセンター)で、有人に残る仕事量をどう見積もり直すかだ。本稿の立場を先に述べておくと、削減率から逆算するのではなく、用件の構成から積み上げ直すべきだと考える。以下の4つの手順は、公開情報をもとに編集部が組み立てた提案であり、特定製品の推奨や実証済みの手法ではない。
自動化対象と有人用件の構成を分ける
最初にやるのは、入電を「AIが完結させる用件」と「人に残る用件」に分けて数え直すことだ。AIが先に持っていくのは、住所変更や残高照会のような定型で短い用件である。CX Todayの人員戦略の解説は、AIが単純な対応を抜き取った後は、密度が高く、感情的で、複雑な案件がAHTを押し上げると指摘している。長い通話は、解約を防いだ結果かもしれないし、自動化の失敗を人が拾い直した結果かもしれない。
仕組みを編集部の仮の数字で確かめる。月1万件のうち6割が平均4分の定型用件、4割が平均10分の複雑な用件だとすると、平均AHTは6.4分、総処理時間は6万4,000分になる。AIが定型用件の半分(3,000件)を完結させると、有人の件数は7,000件と3割減る。一方で総処理時間は5万2,000分と2割弱しか減らず、平均AHTは約7.4分に伸びる。果物の詰め合わせから軽いみかんだけを抜けば、1個あたりの平均の重さが上がるのと同じ理屈である。オペレーターの腕が落ちたわけではない。
当て馬として、AIがAHTを縮める側の数字も置いておく。McKinseyの2023年の報告は、5,000人のカスタマーサービス担当を抱える1社で、生成AIの支援により1時間あたりの解決件数が14%増え、1件の処理時間が9%減ったと紹介している。ただし、これは同じ用件を人がAIの支援付きで処理した場合の効果であり、用件の構成そのものが変わる効果とは別物である。両者を単純に相殺して読むことはできない。要員計画では、この二つの力を分けて置く必要がある。
用件別AHTと入電時間帯を更新する
構成を分けたら、次は用件ごとのAHTを更新する。ここで効くのが指標の定義である。Amazon Connectの指標定義では、処理時間(Contact handle time)は、オペレーターにつながってから終わるまでの時間で、通話時間、保留時間、後処理(ACW)を含むと定めている。自社のAHTが後処理を含むのか、保留を含むのかをそろえないまま導入前後を比べると、構成の変化と定義の違いが混ざってしまう。なお、同製品は2026年4月にAmazon Connect Customerへ名称を変更しているが、本稿では文書の表記に合わせて旧称も併用する。
もっとも、過去の実績だけで予測する方法には限界がある。AWSの予測・要員計画の解説が示すとおり、機械学習による予測は過去の履歴をもとに将来の呼量を見積もる。AI導入前の履歴は、いまとは違う用件構成で集計された数字である。導入前のデータをそのまま学習させるのは、改装前の店の客数で改装後のシフトを組むようなものだ。導入日以降のデータで基準を引き直すか、少なくとも用件別に分けて読み直したい。
時間帯の変化も確かめる。AIは夜間や早朝も応答できるため、定型用件の一部はそちらに流れ、有人の窓口には日中の込み入った相談が残る可能性がある(編集部の推測であり、センターごとに実測で確かめる必要がある)。当日の予測を細かく見直す仕組みもある。AWSの2024年9月の発表によると、当日予測は15分ごとに更新され、残り時間帯の呼量、平均応答時間、AHTを予測する。ただし対象は、過去4週間にキューとチャネルの組み合わせごとに週5,000件以上の固有のコンタクトがある場合に限られる。中小規模のセンターでは、この条件に届かないこともある。
転送・再入電・研修時間を足す
3つ目の手順は、AHTに表れない仕事量を足すことだ。代表的なのが、AIから人への引き継ぎと再入電である。CX Todayの人とAIが共有するキューの解説は、人とAIが同じキューを分け合う環境では、AIの失敗が固まって起き、エスカレーションが波のように押し寄せると述べている。予測が良くなるのは、AIの振る舞いそのものを予測の入力に含めた場合だけだという。
完結率の数字を過信しない姿勢は、ベンダー側からも示されている。CX Todayが2026年4月に報じたAmazon Connect担当者の発言では、解決率を伴わない完結率はノイズであり、初回解決率を伴わないAHTは見栄えのための数字にすぎないとされた。AIが「完結」と記録した用件のうち、翌日に同じ顧客が電話をかけ直してくる分は、有人側の呼量に戻ってくる。Amazon Connectの指標定義にも転送件数(Transferred out)の項目があり、引き継ぎの量は実績で追える。
研修時間も見落とされやすい。難しい用件の比率が上がれば、新人が独り立ちするまでの期間や、既存の担当者の学び直しの時間は増えると考えるのが自然だ。AWSの要員計画シナリオの手順は、シナリオの入力に縮小率(シュリンケージ)の欄を設けている。シュリンケージとは、休憩・研修・会議など、出勤していても電話を取れない時間の割合を指す。AI導入後は、この比率を導入前の値のまま据え置かないことが肝要である。
繁忙時のシナリオで余力を確かめる
最後に、平常時ではなく繁忙時で余力を試す。Amazon Connectの要員計画機能の説明によれば、要員計画は最長64週先まで、サービスレベル目標を満たすのに必要なFTE(常勤換算の人数)を見積もるものだという。編集部の提案は、ここに少なくとも3つのシナリオを並べることだ。AIの完結率が想定どおりの場合、完結率が大きく下がった場合、そしてキャンペーンや障害で呼量が急増した場合である。AIの停止や精度の低下は、繁忙期に重なるほど影響が大きい。防波堤の高さを平常時の波で決めないのと同じで、人員の余力も荒天の日で決めておきたい。
自動化率を目標に置きすぎる危うさは、国内の現場取材でも語られている。フライルの財部優一氏に、自動化率を唯一のゴールにしない考え方を伺ったCC AI Labの取材記事を、無料会員向けに公開している。要員計画の数字を置く前に、何を成果とみなすかを確かめる材料になる。
ここからは私の見立てとして書く。AI導入後の要員計画でいちばん危ないのは、ベンダーの完結率やMcKinseyのような長期予測を、そのまま翌期の採用数に掛けてしまうことだと考える。自己反証もしておく。McKinseyの見積もりが示すとおり、AIの完結範囲が広がり続ければ、有人の必要数はいずれ大きく減るはずで、慎重すぎる計画は人件費の持ち越しを生む。この反論は正しい。ただ、あの見積もりは2〜3年先を見た数字であり、翌期の人数を決める根拠には期間が合わない。減らすなら、次の3条件がそろってからでも遅くないと考える。第一に、AI導入後の実績で用件別AHTが3か月程度安定していること。第二に、再入電と転送を含めた有人の総処理時間が実際に減っていること。第三に、AI停止時のシナリオでもサービスレベルを守れる余力が残っていること。
まとめ
第一に、AI導入後の呼量減は、そのまま仕事量の減少を意味しない。有人に残る用件は重くなり、平均AHTは伸びやすい。第二に、要員計画は用件別に積み上げ直し、AHTの定義と導入後の実績で基準を引き直す必要がある。第三に、転送・再入電・研修といったAHTの外側の仕事量と、AI停止を含む繁忙時のシナリオまで入れて、はじめて削減の判断ができる。4つの手順はいずれも、編集部が公開情報から組み立てた提案である。
最後に問いを残したい。あなたのセンターで、AIが「完結」と記録した用件のうち、何件が数日以内に有人窓口へ戻ってきているか、いま数字で答えられるだろうか。
注記
本稿の事実確認は2026年9月30日時点。各数字の出典は本文と参考リンクに明記した。定型6割・複雑4割、AHT4分・10分などの計算例は、仕組みを示すための編集部の仮定の数字であり、実在のセンターの実績ではない。4つの手順とシナリオの組み方、減員の3条件は編集部の提案であり、特定のベンダーや製品を推奨するものではない。Amazon Connect(現 Amazon Connect Customer)の機能・条件は製品の更新で変わりうるため、導入時は最新の公式文書で確認されたい。本稿はAI著者によるデスクリサーチであり、個人の見立てを含む。
出典
AWS「Forecasting, capacity planning, and scheduling in Amazon Connect」
McKinsey & Company「The contact center crossroads: Finding the right mix of humans and AI」
McKinsey & Company「The economic potential of generative AI: The next productivity frontier」
CX Today「How to Prepare Your Contact Center Workforce for AI」
CX Today「Human and AI Workforce Management: Rethinking WFM for Shared Queues」
CX Today「Containment Metrics Are Killing Customer Trust, Says Amazon Connect」
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



