通販コールセンターの購入相談をAIに任せると売上は落ちるのか?

通販のコールセンターでAIに移しやすいのは、注文状況の確認や配送日の変更のように、答えが一意に決まる用件です。購入前の相談はそれとは別で、移す前に、その相談が売上をどれだけ押し上げているかを測るところから始めます。経済産業省が2026年10月21日に公表した電子商取引の市場調査では、2025年の物販系BtoC-ECは15兆8,233億円、EC化率は9.8%でした。この市場の電話とチャットの窓口は、注文を処理する場であると同時に、買うかどうかを決めきれていない人の相談先でもあります。
購入相談をAIに任せると売上は落ちるのか。落ちるかどうかは、測っていなければ誰にも分かりません。相談を経た購入を数えていない会社は、AIに移した後で売上が下がっても、それをAIのせいだと示すことも、否定することもできない。ここが分かれ目です。
注文の処理と購入前の相談は、どこで線を引けるのか

用件の分布から見ます。EC・通販の問い合わせで最大の塊は、配送状況の確認です。当ラボが9月にまとめたEC・通販の問い合わせ自動化の記事では、通常期で全体の3〜4割、繁忙期には5割を超えるという集計を扱いました。この層は答えが一意に決まり、注文管理システムと配送事業者のデータを引けば返せます。移す判断に迷いはいりません。
比較対象として、同じ窓口に来る購入前の相談を並べます。サイズが合うか、手持ちの機種で使えるか、今注文して指定日に届くか。答えは商品と在庫と顧客の事情の組み合わせで変わり、会話の途中で別の商品をすすめる展開も起きます。処理と相談の違いは、問い合わせの難しさではなく、その会話が注文を生んでいるかどうかにあります。
問い合わせの総量そのものを減らす道もあります。同日公開の良品計画のお客様相談室の記事は、利用者が増えても問い合わせを減らせた経緯を扱っています。総量を減らす打ち手と、残った相談を誰が受けるかの判断は別の話で、後者を決めないまま前者だけを進めると、減った件数の中身が分からなくなります。
購入前の相談は、売上をどれだけ押し上げているのか
Sun・Chen・Fanの研究(Production and Operations Management、2021年)は、中国のCtoCマーケットプレイス淘宝網のパネルデータから、有人チャットが訪問から購入への転換率(訪れた人のうち買った人の割合)にプラスに働くことを示しました。効果の強さは一定ではありません。商品ページの情報が手薄な商品と、単価の高い商品で強く出ています。相談が効くのは、買い手が自分だけでは確かめきれない点を抱えているときです。
AI側の数字もあります。Wangらのランダム化実地実験(Information Systems Research、2025年)は、ライブ配信販売のプラットフォームでAIアシスタントを使える群と使えない群に分け、売上が3.00%増え、返品率が12.55%下がったと報告しています。著者らは、買い手の不確実性が減ったことを理由に挙げています。
越境ECでの実験もあります。Fangらの実地実験は、2023年9月から2024年6月にかけて、越境ECの7つの業務に生成AIを組み込んでランダム化比較を行い、効果は業務によって0%から16.3%に分かれたと報告しました。最大の16.3%は購入前のチャットボットで、検索語の補正が2.9%、商品説明の生成が2.1%です。利益は費用の削減ではなく売上の増加から出ていて、経路は転換率の上昇だとしています。
ここまでは「AIの相談は売上を上げる」と読めます。ただし、3つの研究には共通する前提が1つあります。いずれも、人が相談に応じていた場にAIを代わりに置いた実験ではありません。相談の手が足りていなかったところにAIを足し、足さなかった群と比べたものです。だからこの数字は、AIを足すと売上が増える証拠にはなっても、人をAIに置き換えても売上は変わらない証拠にはなりません。
置き換えた側の実例は、別の軸で測られてきました。Klarnaは2024年2月、OpenAIと組んだAIアシスタントが1か月で230万件の会話を処理し、問い合わせの3分の2、人に換算して700人分に当たると公表しました。いずれも同社自身の集計です。そして2025年5月、同社CEOはコストを評価軸に置きすぎた結果として品質が落ちたと述べ、有人オペレーターの採用を再開しました。移すときの物差しは件数と費用、戻すときの物差しは品質。売上はどちらの局面でも物差しに入っていません。
相談を経た購入を、どうやって数えるのか

計測の土台は、相談そのものの結果を記録することです。当ラボが9月に整理した自己解決率の計測設計では、閲覧・回答評価・手続き完了を層に分けて記録し、結果が分からない分を独立して表示する設計を扱いました。購入相談でも考え方は同じで、違うのは、会話が終わった時点では結果が決まらない点です。相談の結果は、数日後の注文に現れます。実店舗なら、接客を受けた客がレジに並んだかどうかは目で見えます。通販の窓口ではそれが見えないので、記録で作り直すことになります。
次の3つは、出典のある手順ではなく、編集部が組んだ設計案です。
相談の会話に識別子を振り、注文と突き合わせる。会話IDに顧客IDか端末IDを紐づけ、相談が終わってから一定期間内の注文を「相談を経た購入」として数えます。期間は商品の検討期間に合わせて決め、一度決めたら動かしません。
相談あり・なしのコホート(条件をそろえた集団)を比べる。相談する人はもともと買う気が強いので、単純な比較は相談の効果を大きく見せます。商品カテゴリ・流入経路・価格帯をそろえて比べ、それでも差は上振れしているものとして読みます。
窓口の出し分けで差を作る。相談窓口の表示を一定割合の訪問者に出さない、またはAIと人に無作為に振り分けます。運用上は抵抗が強い手ですが、売上の差をAIのせいだと言えるのはこの形だけです。1商品カテゴリ、期間を区切って試すところから始められます。
売上と一緒に返品率も見ます。Wangらの実験で返品率が12.55%下がったように、相談には「買わせる」働きだけでなく「間違って買わせない」働きもあります。相談を減らして注文が増え、返品も増えたなら、差し引きはマイナスです。この2つを別々の部署が見ている会社では、差し引きの計算が誰の机にも乗りません。
人を残す条件を、どこで決めるのか

日本の通販で人を残す線は、商品単価ではなく、買い手が自分だけでは確かめきれない点が残るかどうかで引くのがよいと見ています。Sunらの研究で効果が強く出たのが情報の手薄な商品と高単価の商品だったのは、どちらも買い手が1人では判断を閉じられない状況だからです。適合の確認、サイズ選び、指定日納品の可否、取り付け工事の要否。この種の用件は、単価が低くても人に残す価値があります。
人を残した先の設計は、IKEAの事例が1つの形です。定型の問い合わせをチャットボットに移し、空いた人員を遠隔のインテリア相談に振り向け、その相談を売上として数えました。相談を売上で説明できる形にしておくと、人を残す判断が精神論になりません。
相談の件数が少ない窓口では突合の仕組みが採算に合わず、全部AIに任せたほうが総額で勝つ場合もあります。それでも、勝つかどうかは測ってから言うことで、測らずに移すと、落ちた分だけが見えないまま残ります。相談の窓口が注文導線の中にある通販なら、移管の検討より先に突合の仕組みを作る順番になります。
まとめ
注文状況の確認や配送日の変更は、答えが一意に決まるのでAIに移せます。線は用件の難しさではなく、注文を生んでいるかどうかで引きます。
購入前の相談が転換率と返品率に効くことは、複数の研究で確かめられています。ただし確かめられたのは相談を足した場合で、人を置き換えた場合ではありません。
移す前に測るのは、相談を経た購入の件数と金額、相談あり・なしの差、返品率の3つです。
自社の窓口で、相談を経た注文は先月何件ありましたか。答えが出てこないなら、AIへの移管はその数を数えてからの話になります。
よくある質問
相談を経た購入は、どれくらいの期間で数えればよいですか。
商品の検討期間に合わせます。日用品なら相談の当日から翌日、家具や家電のように比較に時間がかかる商品なら1週間から2週間が目安です。期間を途中で変えると前後の月が比べられなくなるので、決めたら固定します。
電話の相談も同じように数えられますか。
数えられますが、チャットより手間がかかります。電話番号と顧客IDの突合が要り、会員登録のない相談者は注文時のメールアドレスか電話番号でしか結べません。チャットで仕組みを作ってから電話に広げる順が、現実的です。
AIに任せると客単価は下がりますか。
測らないと分かりません。別商品や関連商品のすすめを含む窓口では、AIの提案が人に届くかどうかで変わります。売上の合計と客単価を分けて追うと、件数が増えて単価が下がる形の変化を見落とさずに済みます。
相談をAIに移した後で、元に戻せますか。
運用は戻せますが、人の側の商品知識は戻りません。商品知識は日々の会話で保たれるため、相談を全部移すと、数か月後には戻す先の人がいなくなります。一定の割合を人に残す運用のほうが、戻す選択肢を保てます。
注記
本記事は2026年10月23日時点で確認した公開情報(公的統計・学術論文・報道)と、編集部による計測設計の案に基づきます。研究の数値は各論文が対象としたプラットフォーム・期間・商品構成のもので、日本の通販にそのまま当てはまる値ではありません。Klarnaの件数・人数は同社自身の公表値です。売上の差をAIだけの結果と読むことはできません。特定の製品・ベンダーの推奨ではありません。確認日: 2026年10月23日。
出典
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。


