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声紋認証のしくみ コールセンターで導入前に確かめる4つのこと

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声紋認証のしくみ コールセンターで導入前に確かめる4つのこと

声紋認証は、事前に登録した顧客の声の特徴と電話口の声を照合し、一致の度合いを点数にして本人かどうかを判定する仕組みです。コールセンターでは、生年月日や暗証番号を口頭で確かめる時間を短くする目的で使われてきました。

導入前に確かめることは4つあります。

同意を取り、声紋を使わない顧客の経路を用意できるか。他人を通す率と本人を弾く率をどこに置くか。合成音声や録音の再生への備えが本当に動くか。登録を増やし、仕組みを使い続けられるか。

導入の可否を決める数字は、ベンダーが示す照合精度ではなく、同意して登録まで済ませる顧客の割合だと見ています。声紋認証は登録した顧客にしか効きません。登録が伸びなければ、従来の本人確認と声紋の2本立てを運用する手間だけが残ります。

ボイスクローン(声の複製)による詐欺を前提に本人確認をどう組み直すかは、声で本人確認できない時代の本人認証が詳しく、ここでは仕組みと導入前の確認に絞ります。

声紋認証は「登録」と「照合」の2段階で、結果は点数で返る

声紋認証は「登録」と「照合」の2段階で、結果は点数で返る

登録では、まず従来の方法で本人を確かめ、そのうえで声から特徴を抜き出して保存します。照合では、電話口の声から同じ特徴を作り、登録済みのものと比べます。

流れを具体的に書いているのが、AmazonのクラウドコンタクトセンターAmazon Connectの声紋認証機能Voice IDの説明です。

初回の電話でオペレーターがワンタイムパスコードなどで本人を確かめ、無音を除いた30秒分の発話から声紋を作ります。声紋は、話すリズム、高さ、抑揚、大きさといった特徴を数値にしたものです。

照合は既定で10秒分の発話で行い、IVR(自動音声応答)やオペレーターとの普通のやり取りから取れる設計でした。なお、Voice IDは2026年5月20日でサポートを終えており、この説明は仕組みを知る資料として読みます。

方式は大きく2つです。

方式 顧客がすること 向いている場面
決まった言葉で照合する 「私の声がパスワードです」のような決まったフレーズを話す IVRに組み込み、オペレーターにつなぐ前に済ませたいとき
会話から照合する 何もしない。用件を話す声で照合される 顧客の手間を増やしたくないとき。Voice IDはこちら

照合の結果は「本人か他人か」の二択ではありません。一致の度合いを示す点数で返り、どの点数以上を本人とみなすかの線(閾値)は導入する側が決めます。

もう1つの使い方が、なりすましの常習者の声を集めた一覧(ウォッチリスト)との照合です。

英HSBC UKは2021年5月の発表で、声紋認証を使う顧客が280万人を超え、過去1年で約2億4,900万ポンドの不正を防いだとしています。電話バンキングの不正の試みは前年比50%減り、蓄積した不正者の声紋を新しい着信との照合に使っていると説明しました。

国内では、丸紅情報システムズが2019年5月の発表で声紋認証製品の販売開始を伝え、JCBのコンシェルジュデスクで行われる声紋認証の実証実験(PoC)を支援するとしました。

1. 同意の記録と、声紋を使わない経路を先に決める

日本の個人情報保護法では、声の特徴を本人の認証に使えるようにしたデータは「個人識別符号」に当たり、それを含む情報は個人情報になります。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、声帯の振動や声道の形状などの特徴を話者認識に使えるようにしたものを例に挙げています。

利用目的を特定して顧客に知らせることが出発点です。

令和8年改正法の新しい規律は、2026年11月時点で顔特徴データが対象の案

令和8年の改正個人情報保護法は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。本人が気づかないうちに取得されうる身体の特徴のデータのうち、政令で定めるものを「特定生体個人情報」とし、取り扱う事項の事前の周知を義務にしました。

あわせて、違法な取扱いがなくても本人が利用停止を求められる仕組みと、オプトアウトによる第三者提供の禁止を設けています。改正法の条文では、本人の同意を得て取得した場合などは、この利用停止の請求の対象から外れます。

どのデータが対象かは政令で決まります。委員会は政令・規則の整備に向けた考え方を2026年9月16日の資料から10月1日、10月14日の3回に分けて示し、特定生体個人情報は9月16日の回で扱いました。そこでは対象を顔特徴データとする案を示し、ほかに対象とすべきものがあるかを論点に残しています。

2026年11月4日時点で政令はまだ定められていません。声は案に入っていません。施行は改正法の附則で、公布から2年を超えない範囲で政令が定める日です。

検討資料は、対象を一意性・不変性の高いデータに絞る考え方を示しています。声は加齢や体調で変わるため、対象に加わるかは政令の検討を待って判断します。

英国では同意を確かめ直せない登録が削除された

英国の歳入関税庁(HMRC)は電話窓口で声紋認証を使っていましたが、明示的な同意のない登録をめぐって英国の個人情報保護当局(ICO)と協議し、削除に応じました。HMRC長官が2019年5月に公開したデータ保護責任者あての書簡によると、明示的な同意がある約150万人分は残しました。

一方、2018年10月より前に登録して同意を確かめ直していない約500万人分は、ICOが示した2019年6月5日の期限より前に削除するとしています。登録の大半が、同意の取り直しで消えた計算です。同意の記録が無い登録は、後から守れません。

ICOは生体認証のガイダンスで、同意に頼るなら代わりの手段を用意し、断った人が不利益を受けないようにすることを求めています。米国立標準技術研究所(NIST)の本人認証のガイドライン(SP 800-63B-4)も、生体認証以外の選択肢を常に用意するよう定めています。

コールセンターで決める3つのこと

1つめは、登録時に何をどの言葉で伝え、同意をどう記録するかです。IVRの案内文とオペレーターのトークの両方を用意します。

2つめは、断った顧客や登録できなかった顧客を、待ち時間や手続きの範囲で差をつけずに従来の本人確認で通す経路です。

3つめは、過去の通話録音から声紋を作ってよいかです。Voice IDの説明でも、録音からの一括登録は生体認証に同意済みの顧客を対象にしていました。

録音の告知や同意の考え方は、通話録音は法律的にどこまで許されるのかも参考になります。法的な判断は専門家に確認してください。

2. 他人を通す率と本人を弾く率は、別々に測る

2. 他人を通す率と本人を弾く率は、別々に測る

声紋認証の誤りは2種類あります。他人を本人と判定する誤受入(FAR・FMR)と、本人を他人と判定する誤拒否(FRR・FNMR)です。閾値を上げれば誤受入は減り、誤拒否は増えます。

公的な目安としてはNISTの基準が参考になります。NISTが公表したSP 800-63B-4は生体認証全般について、誤受入を1万回に1回以下とすることを求め、誤拒否は5%未満が望ましいとしています。連続して失敗できる回数にも上限を置いています。

ただし、これは米国の行政機関がオンラインで本人を確かめるための基準です。同じ文書は声による生体照合を使わないと定め、生体認証は手元の機器と組み合わせた多要素認証の一部としてだけ使うとしています。電話の声だけで本人確認を終える設計は、この基準の外にあります。

線を引くときは、誤りが起きた後の経路から考えます。

誤受入が起きると、他人が本人として手続きを進めます。住所変更や送金のような被害の大きい手続きは、声紋が一致しても別の確認を足します。

誤拒否が起きると、本人が従来の確認に回されます。通話は長くなり、顧客は不満を持ちます。誤拒否の率は、そのままAHT(1件あたりの平均処理時間)と顧客満足に響きます。

ベンダーの精度値は、録音の質、話す長さ、対象者の年齢層といった試験の条件で変わります。自社の回線と顧客層で試験し、2つの率を別々に記録してください。1つの「認証成功率」にまとめると、どちらの誤りがどれだけあるかが見えなくなります。

3. なりすまし検知は、設定次第で動いていないことがある

声は電話で毎日相手に渡しているものです。録音した声の再生や、短い音声から作った合成音声で照合を突破しようとする攻撃が考えられます。

製品側の備えは、声が生身の発話か、再生や合成かを判定する機能です。なりすまし検知、またはPADと呼ばれます。Voice IDにも、録音の再生や合成音声によるなりすましの可能性を点数で返す機能がありました。

ところが同じ説明には、この検知は不正検知の機能を有効にしたときだけ動き、本人照合だけを有効にした設定では点数が返らないとあります。備えがあるつもりで、実際には動いていない。設定次第でこれが起こります。

ベンダーには次の4点を確かめます。

  • なりすまし検知は標準で動くか、別の設定や別料金か
  • 録音の再生、合成音声、声質変換のどれを、どの条件で試験したか。試験方法は公開されているか
  • 合成音声の技術が変わったとき、検知モデルはどの頻度で更新されるか
  • 検知の点数が高いとき、通話を止めるか追加の確認に回すかを自社で決められるか

製品の検知だけには頼りません。被害の大きい手続きでは、声紋が一致しても別の要素で確かめる設計を残します。

4. 効果を決めるのは照合率より登録済みの割合

4. 効果を決めるのは照合率より登録済みの割合

登録には、従来の方法での本人確認と、一定の長さの発話が要ります。初回の通話で登録を案内すれば、その通話は長くなります。HSBC UKは2021年の発表で、毎週約1万4,000人を登録していると説明していました。

登録は一度のキャンペーンで終わる作業ではありません。日々の応対の中で続ける地道な作業。

効果の試算は、次の式で置けます。数字は説明のための仮のものです。

項目 例えばの値
月間の入電のうち、本人確認が要る通話 10万件
そのうち、声紋の登録済み顧客からの通話の割合 30%
登録済み顧客のうち、照合に通る割合 90%
声紋で本人確認が済む通話 10万 × 30% × 90% = 2万7,000件
1件あたり短縮できる本人確認の時間 30秒
月あたりの短縮時間 2万7,000 × 30秒 = 81万秒(225時間)

この式で一番動かしやすく、一番効くのは登録済みの割合です。仮に照合率を90%から95%に上げても効果は約6%しか増えません。登録済みの割合が30%から60%になれば、効果は2倍です。

運用では、ほかに3つ決めておきます。

声が変わった顧客の再登録

風邪や加齢、病気で声は変わります。誤拒否が続いた顧客を、どの時点でどう登録し直すかを決めます。何回続いたら案内するか、の基準まで。

声紋の削除の手順

顧客が利用をやめたいと言ったときに、声紋を消す手順と記録を用意します。声が令和8年改正の対象に加わった場合は、利用停止の請求に応じる手順としても使えるようにしておきます。

製品が終わったときの移行

AWSはVoice IDのサポート終了の案内で、2025年5月20日に新規受付を止め、2026年5月20日にサポートを終えました。移行先にはAWS Marketplaceのパートナー製品や、SMSのワンタイムパスコードを挙げています。

登録済みの声紋を次の製品へ移せるのか、顧客に登録し直してもらうのか。契約前に確かめます。

まとめ

声紋認証の費用対効果は、照合精度の数字ではなく、何割の顧客が同意して登録を済ませるかで決まります。ここが分かれ目です。精度の比較に時間を使う前に、登録を案内するトークと、断った顧客の経路を設計しておくほうが結果に効きます。

制度面では、令和8年改正の特定生体個人情報は、2026年11月時点で顔特徴データを対象とする案です。声が入るかは政令待ちですが、同意を取って記録しておけば、どちらに転んでも作り直す範囲は小さくなります。

検討を始めるなら、まず自社の本人確認が要る通話の件数と、そのうち何割の顧客に登録を案内できそうかを1枚の表にしてください。

よくある質問

声紋認証は合成音声で突破されますか。

突破を試みる攻撃は現実にあり、製品はなりすまし検知で備えています。検知が自社の設定で動くかと試験条件をベンダーに確かめ、被害の大きい手続きでは声紋が一致しても別の確認を足します。

声紋の登録に顧客の同意は必要ですか。

声紋データは個人情報保護法の個人識別符号に当たり、利用目的の特定と通知・公表が前提です。2026年7月公布の改正法の新しい規律は、11月時点の委員会の案では顔特徴データが対象で、声が入るかは政令で決まります。同意を取り、記録しておく設計を勧めます。法的な判断は専門家に確認してください。

過去の通話録音から声紋を作ってもよいですか。

録音を取った時点の利用目的に声紋認証が含まれていなければ、そのまま使うのは避けます。AWSのVoice IDの説明でも、録音からの一括登録は生体認証に同意済みの顧客を対象にしていました。

声紋認証の精度はどれくらいですか。

ベンダーの公表値は試験条件で変わるため、横並びの比較はできません。自社の回線と顧客層で試験し、誤受入と誤拒否を別々に測ります。

注記

本記事は2026年11月4日に確認した公開情報(法令・ガイドライン・当局と企業の公表資料・製品ドキュメント)に基づきます。HSBC UKの数値は同行の2021年5月の発表による自己申告です。

AmazonのVoice IDは2026年5月20日にサポートを終えており、記述は公開が続いている同社ドキュメントの説明によります。

令和8年改正法の政令の検討状況は、個人情報保護委員会の改正法のページと2026年9月16日・10月1日・10月14日の資料で確認しました。

試算の数字は説明用の仮のもので、実在企業のデータではありません。法的な判断は行っておらず、個人情報の取扱いは専門家に相談してください。特定の製品の推奨ではありません。確認日: 2026年11月4日。


出典

この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

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この記事について相原さんに聞く数字の読み方や、他の事例との違いを、Labの記事を根拠にお答えします。
この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

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