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AI時代のCXをブラックボックスにしない——「プロセスインテリジェンス」という新潮流

鈴木 崇StandardAI株式会社
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顧客がWebで請求明細を探しても見つからず、チャットボットに尋ねると、すでに読んだFAQを案内される。仕方なく電話をかけると、オペレーターは複数の画面を行き来し、途中で保留してSVに確認する。その場では解決せず、顧客は数日後にもう一度電話をかける…

企業のダッシュボードには、Webの閲覧数、チャットボットの利用率、電話のAHT、応対後の満足度がそれぞれ表示されているかもしれません。しかし、一人の顧客が問題を解決するまでに、なぜこれほど遠回りしたのかを一続きで見られる企業は、どれほどあるでしょうか。

グローバルCX企業のFoundeverは、2026年7月に公開した記事「5 reasons why process intelligence should be your CX north star」で、多くの企業はCX運営の入口と出口は把握している一方、その途中で何が起きているかはブラックボックスになっていると指摘しています。そして、その箱の中を見えるようにするものとして挙げるのが「プロセスインテリジェンス」です。

参考記事:https://foundever.com/blog/5-reasons-why-process-intelligence-should-be-your-cx-north-star/

KPIは見えても、CXの「途中」が見えない

AHTが長くなった。FCRが下がった。顧客満足度が伸びない。こうした結果は、問題の存在を知らせてくれます。しかし、どこを直すべきかまでは教えてくれません。

原因はオペレーターの習熟度かもしれませんし、ナレッジの探しにくさ、CRMや基幹システムへの重複入力、複雑な承認、セルフサービスの行き止まりかもしれません。複数の要因が連鎖している可能性もあります。個々の接点を別々のKPIで管理している限り、顧客が実際に経験した遠回りは分断されたままです。

プロセスインテリジェンスとは何か

プロセスインテリジェンスとは、システム、部門、チャネルをまたいで、仕事が実際にどのような経路を通っているかをデータから捉え、継続的な改善につなげる考え方です。もっとも、この言葉が指す範囲は、企業や調査会社によって少しずつ異なります。

中心にあるのは、業務システムのイベントログから処理経路を復元する「プロセスマイニング」です。これに、PC上の操作を捉えるタスクマイニング、業務のモデリング、監視、異常検知、シミュレーション、改善候補の発見や改善施策につなげる機能などが加わります。


したがって、まったく新しい技術が突然登場したわけではありません。従来のプロセスマイニングが、業務を可視化する分析手法から、改善とAI活用を支える基盤へ拡張される過程で、プロセスインテリジェンスという言葉が前面に出てきたと捉える方が正確です。

実際、Gartnerが2025年に『Process Mining Platforms』と呼んでいた市場は、2026年には『Process Intelligence Platforms』へ変わりました。現在の定義には、プロセスの発見だけでなく、分析、設計、監視、AI・自動化候補の特定、意思決定支援まで含まれています。


出典:Gartner, 「Magic Quadrant for Process Mining Platforms」, https://www.gartner.com/en/documents/6363611

出典:Gartner, 「Process Intelligence Platforms(Market)」, https://www.gartner.com/reviews/market/process-intelligence-platforms

日本でもCelonisが2025年と2026年に『Process Intelligence Day Tokyo』を開催し、AIとの接続を主要テーマに掲げています。まだCXの現場で広く定着した言葉とはいえませんが、企業ITや業務改革の領域では、プロセスインテリジェンスという呼び名が使われ始めています。現時点では、導入率よりも、言葉と市場カテゴリーの形成が先行している段階です。

出典:Celonis, 「Process Intelligence Day Tokyo 2025」, https://www.celonis.com/jp/news/press/process-intelligence-day-tokyo-2025

出典:Celonis, 「Process Intelligence Day Tokyo 2026」, https://www.celonis.com/jp/events/process-intelligence-days/tokyo-2026

AIがブラックボックスを二重にする

なぜ今、この考え方が注目されるのでしょうか。

従来のCX運営にも、設計された業務フローと、現場で実際に行われている仕事のずれがありました。例外に対応するため、オペレーターがマニュアルにない迂回手順を使っていることもあります。その実態を把握しないままAIを導入すると、問題のある業務を速く、大規模に実行してしまうおそれがあります。

さらにAIが回答、分類、システム操作まで担うようになると、確認すべき対象が増えます。誤った案内が発生した場合、その原因がAIに与えた情報なのか、参照したナレッジなのか、前工程の分類なのか、生成された回答なのか、後続システムとの連携なのかを切り分けなければなりません。人への引き継ぎ条件が不適切だった可能性もあります。

これまでの「見えない業務」に「見えないAIの判断」が重なります。同記事はこれを、不透明な業務と不透明なアルゴリズムが二重になった状態だと表現しています。AI単体の回答精度を測るだけでは、顧客が受けた体験を説明できません。必要な記録が接続されていれば、プロセスインテリジェンスは、人・AI・システムを含む処理がどの順番で進み、どこで通常の経路から外れたのかを追う助けになります。ただし、プロセスインテリジェンスが扱えるのは記録・接続された処理の履歴であり、AIの内部的な推論そのものは対象外です。AIの動作監視や権限管理、人が介入する条件は、別に設計する必要があります。

AIに社内文書を与えるだけでは、実際の業務がどこで滞り、どの例外で人の判断が必要になるかまでは伝わりません。プロセスインテリジェンスは、AIに企業固有の「業務の文脈」を与え、どこへ導入すべきかを判断する土台として期待されています。

CXを「接点」ではなく「解決までのプロセス」で見る

コンタクトセンターでは、通話時間や応対品質だけを改善しても、顧客の問題が解消するとは限りません。電話の前にWebやチャットボットで何が起き、通話後にどの部門で処理が止まり、なぜ再入電したのかまで見なければ、本当のボトルネックを取り違える可能性があります。

Web、チャット、通話、CRM、後続業務の記録を、顧客や案件の単位で結び付けられれば、例えば次のような問いをデータで検証できます。

  • どのセルフサービスの行き止まりから電話が発生しているか

  • どの問い合わせで検索、保留、転送、SV確認が増えるか

  • 解決した応対と再入電につながった応対では、その後の処理経路がどう違うか

  • 熟練者と育成層は、どの画面やナレッジで異なる行動を取っているか

これは「電話を速く終わらせる」ためだけの分析ではありません。顧客が問題を解決するまでに背負っている負担を、部門やチャネルを越えて見直す試みです。

データで見えないものは残る

もっとも、プロセスインテリジェンスも業務のすべてを映すわけではありません。ログから分かるのは、原則として記録された行動です。

オペレーターが手を止めた理由が、顧客の声色や間、説明の迷い方にあったとしても、操作ログには残りません。口頭での相談、個人のメモ、言語化されていない熟練者の判断も抜け落ちます。データ上の経路と結果に関係が見えても、それだけで原因を確定できるとは限りません。

通話内容や音声情報、VOC(顧客の声)、オペレーターへの聞き取り、実際の画面観察などと組み合わせて初めて、業務の実像に近づけます。プロセスインテリジェンスとは、業務そのものではなく、取得できたデータから再構成した業務像である。この限界も押さえておく必要があります。

プロセスインテリジェンスは目的ではなく、そこへ向かう土台

Foundeverは、プロセスインテリジェンスがCXを正しい方向へ導く「North Star(北極星)」であり、意思決定を鋭くする「レンズ」だと表現しています。北極星が航路の道しるべであるのと同じで、ここで指しているのも、進むべき方向です。


その方向の先にあるのは、顧客の問題が解決し、再問い合わせや顧客の負担が減った状態です。プロセスインテリジェンスは、そこへ向かう経路で何が起きているかを観測し、改善につなげるための土台といえます。

AIを導入しただけでCXが高度化するわけではありません。人とAIとシステムが何をしたかを確認でき、問題が起きた経路をたどれ、人が必要な場面で止めたり修正したりできる。その状態があって初めて、AIを含むCXを継続的に管理できます。

AIで顧客対応を変える前に、企業は現在の顧客対応が実際にどう動いているかを説明できるのか。プロセスインテリジェンスは、その問いを避けて通れない時代になったことを示す言葉なのかもしれません。

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この記事について相原さんに聞く数字の読み方や、他の事例との違いを、Labの記事を根拠にお答えします。
この記事の著者
代表取締役CEO/StandardAI株式会社

システム開発エンジニアとして、大規模システムやスマートフォンアプリ、ゲームの開発に加え、機械学習を活用したシステム開発を経験。コンタクトセンターBPO企業では、AIプロジェクトの立ち上げと業務システムの設計・開発・運用を担当した。2024年にStandardAI株式会社 を設立。同社では、コンタクトセンター向けAI「オペすいすい」の開発・提供に加え、AIシステムの受託開発や、導入・運用・業務改善を支援している。

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