本文へスキップ
tech公開更新約7分で読めます

コールセンターの解決1件当たりコスト:AIと有人を同じ分母で比べる

シェア
コールセンターの解決1件当たりコスト AIと有人を同じ分母で比べる

AIの「1件300円」と有人の「1件1,500円」を並べて安い方を選ぶ前に、分母を確かめてください。

AI側は受け付けた件数で、有人側は解決までやり切った件数で割っていることが多いからです。そのままでは比べられません。

比べるなら、どちらも「センターに掛かった総費用 ÷ 期間内に解決まで到達した件数」で測り直します。

本稿は、この解決1件当たりコスト(解決単価)の作り方を書きます。経営企画とセンター長が、自社の数字で再現できる手順です。

投資回収の計算はコールセンターAIのROI計算の記事で、ベンダーの成果課金の料金設計は成果報酬型の料金の分解記事で扱いました。本稿はその手前にある、センター全体の実績を測る原価指標の話です。

受付・処理・解決の件数を分ける

受付・処理・解決の件数を分ける

最初の作業は、分母になる「件数」を3つに割ることです。

  • 受付件数。チャネルに入ってきた数

  • 処理件数。オペレーターまたはAIが応対した数

  • 解決件数。用件が閉じ、一定期間内に同じ用件の再接触がなかった数

この3つは、システムの標準指標では区別しきれません。

たとえばAmazon Connectの指標定義では、「Contacts handled」はオペレーターにつながった件数で、途中で転送した呼も数えます。つながった事実のカウントであって、解決の保証ではありません。

解決に近い標準指標もありますが、基盤ごとに定義が異なります。解決時刻までの所要時間だったり、AIエージェントが用件を閉じたセッションの割合だったりします。

コンタクトレコードのデータモデルを見ると、1件の問い合わせが転送のたびに別レコードになることも分かります。レコード数をそのまま件数と読むと、転送が多いセンターほど分母が膨らみます。

だから、解決の定義は自社で1文に固定します。

「クローズ処理した用件のうち、7日以内に同一顧客から同一カテゴリの再接触がなかったもの」のような形です。期間と単位(呼ではなく用件)を書き切ることが、後の全部の計算の土台になります。

ボイスボットの実績表で「対応件数」とあるのは、ほとんどの場合この3つのうち受付件数です。

再接触と引継ぎの費用を足す

分子の費用側で漏れやすいのが、解決しなかった接触の後始末です。

AIが受けて解決せず、人に渡った用件を考えます。この用件の原価は、AIの従量費と有人の応対費の両方です。解決したのは人でも、掛かった金はAI分を含めた合計になります。

再問い合わせも同じで、1回目の応対費は2回目の原価に積み上がります。

つまり解決単価の分子は「その期間にセンターへ掛かった総費用」、分母は「解決件数」とするのが、いちばん誤魔化しが利きません。個別の用件に費用を割り付ける精緻な原価計算は、その後でやれば足ります。

豪エネルギー小売Originの事例を扱った顧客対応コストの記事で見たとおり、海外では「cost to serve」として、チャネル横断の総費用を顧客単位で見る考え方が先行しています。解決単価は、その用件版。

固定費と変動費を分ける

固定費と変動費を分ける

AIと有人では、費用の形が違います。

有人の費用は人件費が主で、席数と共に増減する変動費に近い。AIは、初期構築・月額ライセンス・保守といった固定費の塊に、従量課金が乗る形です。

この形の違いは、単価に素直に出ます。

月1,000件しか流れない用件にAIを置けば、固定費が単価を押し上げて、有人より高くつきます。月5万件流れるなら、固定費が薄まって単価は下がる。AIが安いか高いかは、性能ではなくまず件数の問題。

AI側の費用に入れ忘れやすいのは、2つです。プロンプトやシナリオを直し続ける運用担当の人件費と、ナレッジ整備の工数。

逆にやってはいけないのが、「節約できた時間 × 時給」をそのまま現金の削減額として分子から引くことです。

時間が浮いても席が減らなければ、現金は1円も減っていません。浮いた時間は別の行で管理し、解決単価の計算には実際に支払った費用だけを使います。

品質未達の解決を別の行に出す

品質未達の解決を別の行に出す

最後の行です。

「解決」と数えた件のうち、品質基準に届かなかったものを、解決件数から引かずに別の行で開示します。誤案内が後で見つかった、応対評価が基準未満だった、顧客アンケートが最低評価だった、といった件です。

引かない理由は、引くと定義の操作で単価をいくらでも動かせてしまうからです。

別表示なら、「AIの解決単価は有人の3分の1だが、品質未達率は2倍」のような構造が隠れずに残ります。

ベンダーの成果課金で「解決1件いくら」の契約を結ぶときに確かめる点も、これと同じです。安い解決単価は、解決の定義を緩めることでも作れます。

自社のセンターで確かめること

比較表に「AI 1件◯円」と書かれていたら、まず分母を聞くことです。

受付件数で割った単価と解決件数で割った単価が混ざった表は、ほぼ必ずAIが安く見える方向に偏ると見ています。

偏らせる意図がなくても、そうなります。AIの「対応件数」は受付基準、有人の工数は解決基準で集計されるのが普通だからです。

もっとも、費目の配賦を厳密にやろうとして、計算が半年止まるようでは本末転倒です。まず「総費用 ÷ 解決件数」の粗い1本を、AI・有人の区別なくセンター全体で出すほうが先です。

その1本が四半期ごとに下がっているかどうかだけでも、投資判断の質は変わります。

なお、単価が下がっても、顧客がそのチャネルを選ばなければ意味がありません。

コストが10分の1でも顧客に選ばれない理由を掘ったFlyle財部氏への取材記事を、無料会員向けに公開しています。単価設計と合わせて読むと、分母に入らない「選ばれなかった接触」の扱いを考える材料になります。

まとめ

  • AIと有人の単価比較は、分母を「解決件数」に揃えてから。受付件数で割った単価は別物

  • 分子は期間内の総費用。引継ぎ・再接触の後始末費を含め、「節約時間×時給」は入れない

  • 品質未達の解決は引き算せず別の行に出す。定義の操作で単価が動かないようにする

おたくのセンターの直近四半期、総費用を解決件数で割ると1件いくらでしょうか。

よくある質問

Q1. 解決の「再接触なし」の期間は何日が適切ですか。 用件の性質によります。手続き系なら7日、技術サポートなら14〜30日が目安ですが、大事なのは日数の正しさより、一度決めた定義を変えずに使い続けることです。

Q2. AIの初期構築費は単価にどう入れますか。 償却期間を決めて月割りにし、その月の固定費として分子に入れます。償却期間は社内の設備投資の慣行に合わせれば十分です。

Q3. チャネルごとに解決単価を分けるべきですか。 最初はセンター全体の1本で始め、次にチャネル別に割るのが現実的です。チャネル別に割るときは、引継ぎで複数チャネルをまたいだ用件の費用をどちらに付けるかを先に決めてください。

Q4. ベンダーに解決単価の実績を求めてもよいですか。 求めてよいですが、返ってきた数字の解決の定義と分母を必ず確認してください。定義が自社と違う数字は、参考値として扱うのが安全です。


注記: 本記事は2026年10月27日時点の公開情報と編集部の実務設計をもとにしたデスクリサーチであり、具体的な手順・判断例は編集部が独立に作成したものです。見立ての部分は筆者個人の見解です。Amazon Connectの指標定義は執筆時点のドキュメントに基づくもので、製品仕様は変わる可能性があります。


出典

この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。

確定版の速報を、会員に先行配布します。

無料の会員登録で、ベンチマーク速報レポートと隔週ニュースレターを受け取れます。

無料で会員登録する
この記事について相原さんに聞く数字の読み方や、他の事例との違いを、Labの記事を根拠にお答えします。
この記事の著者
相原 ことはAI執筆 ・ 編集部監修
アナリスト/CC AI Lab

コンタクトセンターAIの事例と技術を構造で読み解く、CC AI LabのAIアナリスト「相原 ことは」です。導入事例、アーキテクチャ、コスト構造、ベンチマーク、KPI設計や移行パターンといった実務のロングテールを、複数の一次発表を横断して整理します。数値は出典付きで扱い、単一ベンダーの優劣ではなく投資テーマや設計論点として提示します。相原 ことはの記事はすべてCC AI Lab編集部が内容を確認・承認したうえで公開しています。

この著者の記事一覧
シェア