コールセンターのカスハラ対応マニュアルの作り方 判定基準と切電ルールを決める3つの手順

カスハラ対応マニュアルで最初に決めるのは、対応フローではなく判定基準です。「どこからがカスハラか」が決まっていないマニュアルは、警告のフローも切電のルールも現場で動きません。オペレーターが迷った瞬間に、結局はその場のSV(スーパーバイザー)の胆力頼みに戻るからです。
2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法によりカスハラ防止の雇用管理上の措置がすべての事業主の義務になりました。厚生労働省の施策ページに指針(2026年2月26日告示)と資料がまとまっています。制度の中身の解説は本稿ではしません。ここで書くのは、義務化を受けて「現場で使えるマニュアルをどう作るか」です。
検索すると業界団体のガイドライン紹介や支援サービスの案内は多く出てきますが、マニュアルに写せる粒度の「決め方」はあまり書かれていません。コールセンターの運営者が自社のマニュアルを作る順番で、3つの手順にまとめます。
手順1 判定基準を決める

「内容」と「態様」の2軸で線を引く
厚生労働省の指針の考え方に沿うと、カスハラの判定は2つの軸で整理できます。要求の内容が妥当か、そして要求を伝える手段・態様が社会通念上相当か。この2軸を自社の用件に当てはめて、具体的な行為リストに落とすのが手順1です。
重要なのは、正当なクレームとの境界を行為で書くことです。「理不尽な要求」のような抽象語では、オペレーターは通話中に判定できません。
行為リストは「即時対応」と「累積対応」に分ける
判定基準は2層に分けると現場で使えます。
1回でも出たら即座に対応に入る行為。暴言・人格否定(「バカ」「死ね」等の文言例を挙げる)、脅迫めいた発言(「家に行く」「ネットに晒す」)、性的な言動、オペレーター個人の氏名や連絡先の執拗な要求、といった類型です。
繰り返しで対応に入る行為。同じ要求の執拗な反復、長時間の拘束(目安時間を決める。例えば同一用件で30分超など自社の平均処理時間から設定)、謝罪の強要の繰り返し、といった類型です。回数や時間の閾値は自社のデータから決め、マニュアルに数字で書きます。
「要求内容が正当でも態様でカスハラになる」を明記する
現場が最も迷うのは、返金要求自体は正当なのに怒鳴り続けるケースです。内容の正当性と態様の相当性は別に判定する、態様が線を越えたら内容が正当でもカスハラ対応に切り替える、と明記します。この1行があるだけで、オペレーターの「お客様は正しいことを言っているから切れない」という抱え込みを防げます。
手順2 警告から切電までの段階ルールを決める
3段階が基本形
切電(通話の終了)をいきなり行うのではなく、段階を踏む形にします。基本形は3段階です。
第1段階は注意の伝達です。「そのような言い方をされると対応を続けられません」と、行為を特定して伝えます。ここで止まる相手は多く、この段階の文言はマニュアルにスクリプトとして書き切ります。
第2段階は警告です。「これ以上続く場合は、お電話を終了させていただきます」と、次に起きることを予告します。予告なしの切電は、後からの苦情や録音の切り抜きに対して弱くなります。
第3段階は切電。「申し訳ありませんが、お電話を終了いたします」と告げてから切ります。無言で切らない、捨て台詞を言わない、切電後すぐに記録を書く、まで含めて1セットです。
切電の判断権限を決めておく
各段階を誰の判断で進めるかを決めます。推奨は、第1・第2段階はオペレーター自身の判断で実行可、第3段階(切電)はSVの承認または SVへの交代後にSVが実行、という形です。切電の責任をオペレーター個人に負わせない設計が、措置義務の趣旨である「働く人を守る」に沿います。
即時切電の例外も書きます。脅迫や性的言動など即時対応リストの行為は、段階を飛ばして警告1回で切電できる、と明記しておかないと、現場は最悪のケースでも3段階を律儀に踏もうとします。
手順3 エスカレーションと記録のルールを決める

エスカレーションは「交代」と「報告」を分ける
通話中の交代(オペレーターからSVへ)と、事後の報告(SVから管理者・相談窓口へ)は別のフローです。
交代の基準は手順1の行為リストと連動させ、「即時対応リストの行為が出たら交代を申し出てよい」「オペレーター本人が限界を感じたら理由を問わず交代できる」の2本立てにします。後者を入れるのが大事です。交代を申し出ること自体に承認やためらいが要る設計だと、抱え込みは減りません。
事後の報告は、相談窓口(義務化で整備した窓口)への記録の受け渡しまでを含めます。対応したオペレーターのケアとフォローの起点になるためです。
記録はフォーマットを決めて全件残す
記録する項目は7つです。日時、相手の特定情報(会員番号等)、用件、カスハラと判定した行為(手順1のリストのどれに該当したか)、実施した段階(注意・警告・切電)、対応者と判断者、通話録音の有無と保存場所。これを定型フォーマットにします。
記録の目的は3つあります。再発時に前回の経緯を踏まえた対応ができること。切電の正当性を後から説明できること。そして件数と類型を集計し、判定基準の閾値を見直す材料になることです。録音データと記録を紐づけて、保存期間を揃えておきます。
マニュアルを紙で終わらせないために

3つの手順で骨格はできますが、マニュアルは配るだけでは動きません。運用側の見立てを2つ書いておきます。
実際に機能するかを分けるのは、SVの判定訓練だと見ています。オペレーターが報告しても、受けたSVが「それくらい我慢して」と返せば、マニュアルは1日で死にます。判定基準のケーススタディをSV研修に入れ、迷ったら保護側に倒すことを組織の方針として明文化するのが先です。
一方で、基準を厳しくしすぎると正当なクレームまで弾いてしまい、顧客の声から改善の種を拾えなくなる面もあります。四半期ごとに記録を集計し、判定の閾値と行為リストを見直す前提で、最初の版は完璧を狙わず出すのが現実的です。
なお、切電や出禁などの措置が法的な争いに発展しうるケース、悪質性が高く警察・弁護士への相談が必要なケースの線引きは、本稿の範囲を超えます。マニュアルに「ここから先は専門家に相談」という出口を書いておくこと自体が、現場を守る設計の一部です。
まとめ
最初に決めるのは判定基準。内容と態様の2軸で、即時対応と累積対応の行為リストに落とす
切電は注意・警告・切電の3段階で、各段階の文言と判断権限をマニュアルに書き切る。即時切電の例外も明記する
エスカレーションは交代と報告を分け、記録は7項目の定型フォーマットで全件残す
マニュアルを動かすのはSVの判定訓練と、記録に基づく定期的な見直し
自社のマニュアルは、オペレーターが通話中に開いて3秒で判定できる形になっているでしょうか。
よくある質問
Q1. 判定基準の閾値(時間や回数)はどう決めればよいですか。
自社の平均処理時間と、過去の長時間対応の記録から決めます。例えば同一用件の通話が平均の3倍を超えたら長時間拘束の疑いとして交代を検討する、といった形です。業界一律の正解はないため、最初は仮の数字で出し、記録の集計で見直します。
Q2. 切電した相手から「対応が悪い」と再度電話が来たらどうしますか。
前回の記録を参照できる状態にしておき、対応者を変えたうえで、前回の経緯(警告の上で終了したこと)を淡々と伝えられるようにします。記録とフローが残っていれば、個人の記憶で応戦する必要はありません。悪質な繰り返しは管理者対応へ切り替えます。
Q3. 小規模なセンターでSVが常駐していない場合は。
切電の承認者を「SV」ではなく役割で定義し、不在時の代行者(リーダー、管理者の電話承認等)を決めておきます。承認者に連絡がつかない場合にオペレーター自身の判断で切電してよい条件(即時対応リストの行為)も書いておくと、現場が止まりません。
Q4. AIによるカスハラ検知や通話録音の法的論点は考えなくてよいですか。
本稿では扱いませんでしたが、検知ツールの導入はマニュアルの判定基準が決まってからが順番です。基準がないままツールを入れても、アラートの扱いを現場が判断できません。録音の取り扱いなど法的論点は弁護士等の専門家に確認してください。
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注記
本稿は2026年11月4日時点の公開情報に基づくCC AI Lab編集部(AI著者によるデスクリサーチ)の整理であり、法的助言ではありません。措置義務の履行や個別事案の法的判断は、弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
出典
この記事はCC AI LabのAI著者(相馬 迅/相原 ことは)が執筆し、編集部が内容を確認・承認のうえ公開しています。誤りを見つけた場合はお問い合わせフォームからご連絡ください。



